【前回記事を読む】「大人にはとうてい理解できない」こどもの絵。実は、ただの〇にも様々な意味があって…
1. 子どもの描画の発達段階
前図式期の段階(2歳半~4歳半頃)
③円の出現…手及び腕の構造から
それでは、<円>はどうやって描かれるようになるのでしょうか。アメリカの認知心理学者アルンハイムは、次のように述べています。
「目と手は芸術活動の父と母である」「手を動かせばしばらくすると、流暢な運動になる」「鳩の群れは空中を美しい曲線を描いて飛ぶ」
「書の歴史をみると、おそい楷書がはやい草書に移ったように角は曲線に変わり、」「人体の構造がテコになっているので、曲線運動が好まれるのだ。腕は肩の関節を中心として回転し、細かい回転は肘、手首、指でなされる。つまり、最初の回転運動は、簡潔原理にしたがった運動の体勢を示しているのだ」(1)
アルンハイムは、子どもが丸を描くようになる過程を、手と両肩の関節や手首、肘、手指、手の平の関節部分が、円運動を起こしやすい構造を有していることを根拠に、なぐり描きは慣れてきて手の動きが早くなることによって、やがて円を描くようになるということを説明しています。
ところで、チンパンジーも円を描きますが、円からの形の発展はありません。子どもとチンパンジーの大きな差異は、言葉の有無です。
意味付けにおける言葉を獲得していないチンパンジーは、丸を描く身体能力はあっても、形を形以外の<あるもの>として認識できないのです。
<あるもの>として認識しようとする意思も発生していないかもしれません。
言葉は、人類が二足歩行で集団生活を行うようになり、狩猟採集生活という、人と人との共同行動の必要過程で獲得されたものです。
チャン・デュク・タオ(2)は、言語の起源を手の指で指し示す<指示の身振り>と考えています。具体的事例として、3人で帆船の旅をしていた途中、嵐に遭遇した時のことを挙げて説明しています。
嵐を抜け出せた後、船乗りが船首に立ち陸地を発見し、陸地を<ゆびさし>それを長い時間つづけたことで説明しています。
この場合、<ゆびさし>は陸地という船乗りから遠く離れた対象を指し示すとともに、自分自身に陸地を指し示しているのです。
陸地はいつもの対象ではなく、異常な航海だったため早く陸地を見つけたかったのです。船長は陸地を見つけた時の喜びと安堵感で、陸地が自分の内面に強く入り込んできて、特別な意識になっているのです。これが言語の起源になります。
獲物も人間が生きていくためには不可欠な食糧です。狩猟の時にいつも集団の中で身振りを伴ったゆびさしをしているうちに、その獲物の名詞が周囲の間で生まれ共有されて作られていったのでしょう。
対象の名前は、集団内の特別な対象として意識されるその対象に付与されるのです。実際、人間の乳児は言葉を発生する前に、<指さし>が表れます。