淑子は7年前の津波の後に、行方不明の父母を捜して耕太郎おじさんと阿武隈川沿いを歩いたことを思い出しました。瀬上の駅はリンゴ畑と住宅街に挟まれた一角にあり、駅入り口は住宅街のある北側に位置していました。
おんぼろワゴン車はカーナビの指示通りに阿武隈急行の南側にある果樹地帯の農道を進んでいきます。線路と並行になった道に出ると花嫁列車が見えてきました。
助手席の淑子は窓を開けて振袖の左手を大きく振りました。
「おおーい。みんなー」
乗客は気がついたようで、列車の窓から手を振ってくれました。
淑子は友人の姫子に瀬上駅で合流するとショートメールしました。
花嫁列車が速度を落としたので瀬上駅は近いと耕太郎は思いましたが、駅長の最後の言葉が妙に気になっていました。
依頼主は同じ方です……福島と仙台から花嫁候補を電車に乗せて目的地に着いてから、どちらを花嫁にするか決めるんじゃないだろうな。
そんなこと許されるはずはない。
淑子は花嫁列車と競争のフレーズが気に入り、機嫌よくなっていました。
「ありがとう。耕太郎さん、ガードをくぐって入り口の階段の前に送迎用の駐車スペースがあるから、そこに停めて一緒に乗る?」
「そうだね。でもそこは送迎車のための駐車場だろう? まずいよ。とりあえず淑子さんを花嫁列車に乗せよう」
「悪いわね、おじさん」
「いや、おいらも遅れてきたからね」
このあたりの線路は周囲の道路と立体交差になっていて、盛り土の線路の反対側に行くにはガードをくぐります。カーナビは駅のすぐそばの架道橋を示していたので、耕太郎はそこを目指してアクセルをふかしました。ガードをくぐり抜け北側の駅入り口前に車を付ければ間に合うだろうと考えました。
ガードに差し掛かったとき、淑子が声をあげました。
「低いー」
「何だこのガードは?」
耕太郎が声をあげました。