「あなたは劉生とは違うわね。ぜーんぜん、違うわ」
佳香さんは正面からあたしを睨んでいた。その視線はしっかりと焦点が合っているはずなのに、こちらの身体を刺し貫いてはるか彼方に及んでいるように見えた。あたしはスツールから立ち上がり、思いっきり佳香さんを睨みかえした。
こういうことなら得意だ。負けるもんか!
中学のとき、おかあさんのことで虐(いじ)めに遭った。でも、あたしは虐められっ子になることを敢然と拒否した。
家族の誰もが、精神的にぎりぎりのところで生きていた。あたしには弱音を吐ける相手など誰もいなかった。家族に心配などかけたくない。そうであれば、もう強くなる以外にない。
覚悟を決めればあとは簡単だ。虐めてくる連中は必ず群れている。だからひとりずつ引き剥がして集中砲火を浴びせる。
仲間は誰も助けようとしない。その程度の絆でつながっている連中なのだ。それを繰り返していると、みな怖がってあたしに構わなくなった。
普段はいばっているリーダー格の人間が集中砲火を浴びているメンバーを助けないことがわかると、グループ内に乱れが生じた。
あたしは遠くで真面目に刑に服しているおかあさんを世の中から守るんだ、という意気込みで、そんな連中に屈しなかった。
今目の前にいる佳香さんは一匹狼ふうだし、あたしが闘った連中よりもはるかに頭のいい大人の女ではあるけれど、でも、負けてなんかいられない。
思い出すのも辛いことを、なぜ無理やり人に話して聞かせるの? 自虐的なところはおにいちゃんにそっくり。
でも、もっともっとねじくれている。女だから? それともおにいちゃんと違って孤独だから?
「おにいちゃんがあなたのような人と別れることになって、本当によかった! おにいちゃんのためによかった! おにいちゃんはいつか美津子さんの許に戻ります。二人はそういう縁で結ばれているんです」
佳香さんの瞳がかすかに揺らいだ。あたしは手にしていた住所の書かれたコースターを投げつけてやりたい衝動に駆られたが、なぜかそれをしっかり握りしめたまま店を出ていった。
次回更新は5月2日(土)、20時の予定です。
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首筋の皺も、腹の手術痕も…四十女を愛しいと感じる自分が信じられない。―だけど、先生の家には毎週末、DV夫が…