第1章 パーキンソン病の基礎知識

期待される近未来の治療法

そう遠くない未来に期待できそうなパーキンソン病の治療法をいくつかご紹介したいと思います。そのほとんどは、培養細胞や動物実験のレベルであり、すぐに期待できる治療方法ではありませんが、方法論として、ある程度確立しているものです。

抗体医薬品とは、抗体(免疫グロブリン)が異物や病原体などの抗原を認識する仕組みを利用した医薬品のことです。病気の原因となっている組織で過剰に作られる蛋白質を抗原として認識して結合する抗体医薬が、アルツハイマー病やパーキンソン病などで臨床応用されています。

パーキンソン病では、複数の大手の製薬会社によって開発されたα-synを標的とした新薬候補が臨床試験まで進んでいますが、主要評価項目の未達などにより、その進展は難航しているようです。

核酸医薬品とは、20塩基長程度の連結したオリゴ核酸で構成され、蛋白質に翻訳されずに直接生体へ作用する、化学合成された医薬品のことです。

α-syn mRNAを分解して、神経細胞内でのα-syn生成の抑制が期待できます。siRNA、アプタマー、アンチセンスなどがあり、Gapmerと呼ばれる構造を持ったアンチセンス核酸は長期効果が期待されます。

懸念の一つとして、α-synの生体内での本来の働きが十分解明されていないのに、体内での産生を抑制してしまってよいのかという疑問があります。第2章でこの件について触れます。

低分子化合物は、特定の分子をターゲットとして、その機能を阻害する薬剤である分子標的薬として用いられています。化学合成により作られた有効成分が作用し、分子量は一般に1000未満です。

製薬会社やバイオテック・カンパニー、研究機関などでは、膨大な数の化合物を集めた低分子化合物ライブラリーを使って、細胞内の標的を抑制する低分子化合物の探索が行われています。

パーキンソン病では、α-synの産生や凝集を低下させる低分子化合物の研究が進められています。

S1P5受容体作動薬もα-synを標的とした新薬で、S1P5受容体は細胞膜上にあり、脂質の一種であるスフィンゴシン1-リン酸の受容体の一つです。この受容体の作動薬が、オリゴデンドロサイトおよび神経細胞の異常なα-synの蓄積を抑制することを示す実験結果が出ています。すでに製薬会社により臨床試験が行われています。