ところが次の瞬間、一羽、二羽、三羽と隣の樹木へ移ると、残りの鳥も次々と移動していった。
「うううん」とマーガレットお婆さんは溜息をついた。
「主人はアルコールが玉に疵の人だったの。居酒屋(パブ)は男たちの社交場なのね。そこでヘンリーはスタウトをしこたま飲んで、大きな画面に映し出されたサッカーの試合を仲間たちとともに観るの。お酒を飲むと生きていることを実感できるみたい」
お婆さんは、子どもたちが就職して家を出たタイミングで、家主だった主人の伯父が亡くなり、遺言で家の所有権を譲ってもらったこと、そしてそれは子どもたちを育て上げたわたしたちへの神様からのご褒美に思えたと語った。
二人の生活に戻ると、夫の酒量が増え、家で大酒を飲んでサッカー観戦し、テレビの前で大声を張り上げるようになったという。たまに飲みに出かけると、酔っぱらってケンカすることもあった。
「警察からの電話でわたしが夫を迎えに行くと、『ちょっとした路上のいざこざが喧嘩になって、どちらが先かわからないが暴力を振るった。幸い双方とも軽傷で済み、身元引受人が来てくれたから、今回は厳重注意処分で済ます。だからこの書類にサインして帰ってくれ』と警察官が言うの。以来外飲みは我が家では禁止したの」
「もう夕方だ」わたしは自分に日本語で呟いた。日没の準備を始めた太陽は黄色と橙色の中間色の背景を照らし出している。
「リズィ」とマーガレットお婆さんは若い母親が小さな子を呼びつけるような口調で言った。
「さっきまで見えるところにいると思っていたのに、どこへ行ったのかしら」