タオルを巻いて試合を続行! 逆転! 勝利! その後に担架! その手順を踏まなければ、伝説もヒーローも誕生しない。恭平は目を瞑り、小さく呟いた。
「大丈夫です。やります。やりますからタオルを……」
「何、タオル? おい、タオルだ!」
マネージャーが中野監督にタオルを手渡す。
「どうするんだ、タオルなんかを……」
不審がる監督からタオルを受け取り、伝説のヒーローへの条件を満たそうと試みる。
「痛い!」
上半身を起こすと、胸が刺されるように痛く、立ち上がることもできない。おまけにタオルは小さくて、胸を縛るどころか、ねじり鉢巻きがいいところだ。
胸をタオルで縛ることを諦めた恭平は、監督の肩を借りヨロヨロと起き上がる。
「きょう・へい! きょう・へい!」
応援団が一斉に恭平の名をコールする。
(今、テレビ・カメラは俺を追っているに違いない。手を振って応えてやりたい気分だが、それでは軽薄に過ぎる。走り出したりすれば、折角の同情を裏切ってしまう。さて、どうしたものか……)
躊躇する恭平に中野監督が問う。
「無理するな。代わるか……」
「いえ、大丈夫です。やらせてください」
悲壮感の中に、精一杯の気力を込めて応える。
「よし、あと十分だ。行け!」
ところが、目がよく見えない。
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