しかし、この時の私には、そんな知恵は働かなかった。
学校からの帰り道、私は意を決して、ノンコに伝えた。
どんなふうに伝えたのか、その部分のことは思い出せないのだが、別れ際に、ノンコがぽつりと言った言葉は、今でも鮮明に耳に残っている。
「ルンのお母さん、嫌い」
この日のとてつもなく辛かった気持ちもはっきり覚えている。家に着き、母にノンコと別れたことを伝えると、自分の部屋に入り、畳んであった敷布団の上に倒れ込むように横になった。そして、そのまま何時間も動けなかった。
私がこの世に生まれてきて初めて経験した哀しさ、せつなさ、苦しさだった。
この日から、私の母に対する目は変わった。まだ十一歳の子どもである私を、こんなふうに追い詰めた母が、本当に恨めしかった。
当時、小学生だった私にとって、母は絶対的な存在だった。子どもである私の味方であり、私のことを常に守ってくれる存在だと信じていた。母の言うこと、やることは全て正しいと思っていたし、私の中で、母は絶対的にいい人として存在していた。
しかし、この一件は、そんな私の母に対する絶対的信頼を大きく揺るがしてしまう最初の出来事となった。
私の小学生時代の思い出といったら、ノンコと遊んだ思い出でいっぱいである。
もちろん他の友だちと遊ぶこともあったが、ノンコを抜きにして、私の小学生時代は語れない。
確かにノンコは少し個性的な面があったが、それは彼女の長所だったと思うし、他の人に対する思いやりの心も持っていた。また、子どもにしては珍しいと思えるくらい客観的に物事を考えることのできる人だったと思う。