「何、何だ、今のは誰だ?」
「私‥‥デス」
「何ぃ、私デスだとぉ? 変だぞ、骸骨が‥‥しゃべっている」
渋谷医師はまじまじと標本を見つめた。沈黙が訪れた。彼はゆっくりと頭を捻じ曲げた。そして心持ち首を引くと頭蓋骨の二つの穴蔵と行き当たった。視線が合ってカチリと音がしたような気がした。時計の針がカチコチと鳴り、長いようなそれでいて短い時間が過ぎた。
先に目を逸らしたのは渋谷医師の方だった。頭からスーッと血の気が引き、片隅で何かが明滅した。だが抗しがたい力に捻伏せられたかのように、ゆっくりと視線を骸骨の方へと戻していった。
「君、これは、本当のこと‥‥かね?」
彼はおずおずと問いかけた。
「私としては、その、信じたくは‥‥ないのだが」
その声はまるで哀訴をしているかのような震えを帯びていた。
「オ会イ出来テ‥‥光栄デス」
骸骨の口元がカチャカチャと鳴った。
「キット御理解ヲ戴ケルモノト、信ジテオリマシタ」
骸骨はぺこりと頭を下げ、骨がギシギシと軋んだ。釣られて会釈を返しながらも、渋谷医師はまだ信じかねた様子をしていた。
科学者の端くれとしてどうしてこんなことが認められるだろう。だがこっそりと腿を抓ってみるまでもなかった。もうすっかり酔いは醒めていた。
どのような言い訳をこしらえたところで、目の前の光景は事実に相違ない。彼の困惑や当惑の入りこむ余地などなかったのである。
次回更新は4月8日(水)、8時の予定です。
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