そんな中、政子は闇市でKという男に出会う。
「姐さん、ご主人は?」
「……ええ。昭和20年の阿波丸撃沈をご存じですか?」
「ああ、緑十字の船にアメ公が魚雷を撃ち込んだんだよな」
「うちの主人は、あの船に乗っていたんです」
「へぇ、そりゃ災難だったね」
なぜ知らない男に家のことを気安く話すのだと、昭和の女は咎(とが)めるかもしれない。
実際、政子の実母も姑も、そのことでいつまでも政子を責め続けた。
けれども戦後、一番重要なのは情報だった。
「どこどこには何が売っている」
「闇米はどこどこで買える」
「折角買ってもMP(ミリタリーポリス。米軍憲兵のこと)に見つかったら没収されるから全力で逃げろ」
闇市の情報は、現場での内緒話に耳をそばだてることで初めて手に入るのだ。
Kはいつでも闇市に居て、政子を見つけると大事な情報を耳打ちしてくれた。そのうち、
「米も野菜もじゃ重たいだろ? 姐さん、家はどこ? 持って行ってやるよ」
政子は最初は断っていたけれど、男手があると助かるのも事実で、徐々にKやその子分たちが重たいものを家まで運んでくれるようになった。
「姐さんちは街道沿いだから、ちょっとした菓子や海産物なんか置いたら、家に居ても仕事になるよ」
言われるままに干物や塩辛を仕入れるうちに、特攻崩れのKが政子の家に出入りするようになった。
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