概要

現代人のほとんどは、「自分とは何か?」と問われると「自分とはこの肉体である」と答える。そして、「自分の意識とは何か?」と問われると、「意識とは自分の脳の働きである」と答える。これは物質的な自分を指していて、本書では「小さな自分」(仏教では「小我」)と呼ぶ。

「小さな自分」は科学技術の強力な推進者となり、壮大な近代物質文明の建設に成功した。それによってわれわれの生活は便利で豊かなものになったが、その一方で地球環境破壊が進み、核戦争の脅威が迫り、人類滅亡の危機が現実のものになっている。

「小さな自分」は、弱肉強食の生きにくい競争社会を主導し、人類の未来には閉塞感が漂っている。それは、「小さな自分」が科学万能主義と物質至上主義を信奉し、自他を対立的に分別し、自らの欲望を満たすために利己的に働くからである。

実はすべての人間は、「小さな自分」の他に、物質を超越した「大きな自分」(「大我」)をもっているのであるが、現代人のほとんどは「大きな自分」の存在に気が付かない。「大きな自分」は無意識の底に潜んでいて、科学的に説明できないからである。

しかし、古来(現代にいたるまで)、多くの賢者たち、聖人と呼ばれる人たちや著名な哲学者、心理学者、宗教家たちは「大きな自分」の存在と働きについて語り、多くの著書を残している。

本書では、鈴木大拙、西田幾多郎、ハイデガー、池田晶子、ユング、岡潔、弁栄上人らの教えと、「純粋経験のさまざまな姿」、「般若心経」、「老子の道徳経」などを通して賢者の声に耳を傾け、「大きな自分」を生かすことが如何に大切であるかを論じる。