【前回記事を読む】夫が最期に着ていた服のポケットに、連番の宝くじが…「どうせかすりもしない」と破りかけた瞬間、「待ってください!」
三郎商店街のサブちゃん
市瀬は山本の家に着くと、玄関先で靴も脱がずに麻帆に三億円の当選を報告した。
動揺する麻帆の気を静めるために、鈴木と「時の扉」のりえをふたたび呼び集めた。「何かおかしくねえか」鈴木が皆の前で言った。「考えてみろよ。小島の家では高価な時計と設計図が見つかった。佐藤の家では不良息子が地上げ屋の親分と縁を切って更生した。そして、山本の家では宝くじが当たった。全部に共通することは何だと思う?」
「そうか!」市瀬は同席者が驚くほどの大声を出した。「サブちゃんだ。サブちゃんを預かってもらった家に、福が訪れているんだ」
市瀬の言葉に皆がはっとした表情を浮かべ、鈴木が「そうなんだよ。偶然にしてはおかしいだろう? あいつは一体何者だ?」と、問いかけた。しかし、誰も答えられなかった。
そのとき、呼び鈴が鳴った。麻帆が玄関に出ると、「お邪魔します」という野太い声が聞こえてきた。居間に通されたのは、地上げ屋の宍倉だった。市瀬は口に含んだお茶を吹き出しそうになった。
「お集りのところ、突然すまねえ。ご主人に線香をあげさせてもらうよ」
宍倉は正座して仏壇に向き合い、線香を香炉に立て、サングラスを取って合掌した。「よかったらお茶でも飲んでいってください」麻帆が言った。「宍倉さんが地上げ屋だっていうのは知っているけど、線香をあげに来てもらってすぐに追い返したら、あの世から主人に怒られるわ」
「それじゃ、ありがたくいただきますか」宍倉は座布団に腰を下ろした。
「そうだ、ひとつ言っておきてえんだが」宍倉が咳払いをした。「例の大型スーパー進出の話だが、立ち消えになったよ。そういうわけで、俺もお役御免だ。これから不良グループも解散させるし、俺のほうで全部うまくやる。何もなかったように始末をつけるから、心配せんでいい。迷惑をかけたな」「それは吉報だね」勝気なりえが言った。
「この商店街は本当にいい雰囲気で、地上げするにはもったいないと思っていたんだ。もしかしたら、守り神がいるのかもしれんな」
話し終えた宍倉はお茶をすすり「邪魔したな」と、帰っていった。市瀬は宍倉の話を反芻してハッとした。