【前回の記事を読む】新入社員の約半数が1年以内に退社――必ず社長の「お給料以上に働いてください」で終了する朝礼。社長にさえ耐えれば良い職場だが…
第一章 新しい仕事
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BBCは横浜市中区本牧にある。貿易商社で、主にロシアの特産品およびニューヨークからのワインなどを輸入して、日本国内で販売している。一方、国内の中古自動車部品、エンジン、タイヤ並びにエンジンオイルなどを海外に輸出している。本牧は横浜港に近くて海運会社、陸運会社、税関などがあり、貿易商社としては便利な地域である。
社長はロシア人の女性である。ロシア美人の典型で、背は高く金髪で色白である。四十八歳だが容色も保っており、日本人にも気に入られている。日本に来て二十二年になるが、今はニューヨーク支社で仕事をしている。
実家はウラジオストクだ。ウラジオストクは、ロシア連邦南東端で日本海に面した港湾都市である。主要な産業は造船、漁業、海運、貿易で人口は六十三万人である。
アンゼリカの実家は古くから貿易業に関わりがあり、周辺国と機械類、木材加工品、地場の特産品などの輸出入をしている会社で働いている人が多い。
実家のある地元の会社で働いていた時、日本人商社マンに見初められて、日本で暮らすことになった。性格は負けず嫌いで仕事熱心だ。金銭感覚は厳しい。日本語学校の夜学に通いかなり上達している。
しかし、結婚五年後に夫が海難事故で死亡した。一人娘が三歳の時だった。アンゼリカは、夫の死亡後もロシアに戻らず、日本で生活することを決意した。