【前回の記事を読む】「もう少し大きな声で…」という社員からの何気ない野次に、顔を赤らめて動揺した新任部長。その人間性は…
野望の果てに
ここまでしゃべったところで一息つき、お茶を飲み、軽く深呼吸をした。長谷川のお茶休めに合わせるように何名かの部長たちも音を立てずに湯飲みに口を付けた。
マリン設計部の塚口は長谷川に関して、年齢不詳でありアメリカの留学期間や職歴等から推測を試みたが、唯一紛らわしいのがスキンヘッドだった。自分と比べて年上なのか下なのかの判断を迷わせた。塚口はアメリカ社会では年齢にこだわりがない事を知っているが日本の社会では年齢は無視出来ない一つの尺度と考えていたから、出来ることなら知っておきたかった。
長谷川はお茶を飲んだ後、ポケットからおもむろにハンカチを取り出し、頭を前から後ろ方向へ2度ほど撫ぜた。室内は程よい空調にセットされているが多分緊張のせいで頭が汗ばんだのだろうと、前澤は思った。そして出席のメンバーを見渡して、「それではいい機会なので皆さんの自己紹介を出来るだけ短くお願いします。それでは左手前の内田さんから、どうぞ」
内田は「ご指名がありましたので簡単に自身の紹介をします。私は産業機材事業部に配属されたのは4年程前になります。その前は輸出部門に15年ほどいまして、主に自動車部品をヨーロッパ市場に現地代理店を通して販売していました。多分事業部の中では一番年長者ではないかと思います。
元々兵庫県の出身ですが学校を卒業してからず〜っと川崎の郊外に住んでいます。輸出で培った経験を生かして、今は自動車関連企業向けの部品、材料等の輸入製品の拡販に努めています。簡単ですが以上になりますかね」と少し関西訛りがあるゆったりしたしゃべりでトップバッターを務めた。
内田が話し終えると他の出席者からパチパチとまばらな拍手があった。
長谷川は内田が話している間、手元の月次報告書の空きスペースに何やらボールペンでメモを取っていた。
「内田さんありがとうございました」
長谷川は内田の向かい側に座っている塚口に右手を差出して「塚口さん、どうぞ」と声を掛けた。長谷川は年配者に対する敬意を感じさせるように右手を出した時、少し頭を下に傾けた。多分、長谷川は入社の際、支社長のシモンから最低限の個人情報は入手していたから自分より年長者であることを把握していたと思われる。
「塚口です」少し癖のある日本語で語り始めた。