第1章 医療
もしあなたなら
回診していて「お年寄りばかりだな」。
ふとそんなことを感じ急性期の受け持ち患者さんの平均年齢を調べてみました。
22人の平均年齢85歳。最高齢は96歳のHさんでした。
そしてなんとそのうち11人の方が食べられない状態で、9人が肺炎でした。
食べられない方に対し何とか食べられるようにならないかとスタッフを総動員し、口腔ケアから嚥下(飲みくだすこと)訓練、食べ物の形態など様々な工夫をするのですが回復は難しい。
「飯はまだか? まだ飯はもらえんか」、Hさんは回診するたびにいつも悲しい顔で訴えられます。何とか食べさせてあげたいとわずかの食べ物を出すと誤嚥してせっかく治った肺炎のぶり返しです。他の方も同様です。
一昔前は食べられなくなっても在宅での看取りが主でした。その頃の食べられない方に対する医療はどうだったのでしょう。胃ろうはもちろんありません。高カロリー輸液の導入もありません。今日のような鼻から通した管から使用できる成分栄養もなかった。
往診で出向いて末梢からせいぜい500mlの点滴を行うくらいであったと思います。でもそんな状態で自然に衰弱し終焉を迎える。それが自然な姿で誰も疑問も持たず受け入れていたと思います。
でも現在はそのような状態の患者さんの最期を看取る家庭も無くなり、食べられなくなれば入院されることが多い。その結果鼻から入れた管を通しての経管栄養、最近とみに評判の悪い胃ろう、中心静脈からの高カロリー輸液、末梢からの気休め的な点滴などが行われています。でもいずれも治す治療ではなく、ただ幾許かの延命を求めるだけの治療です。
鼻からの管では患者さんの苦痛も多く肺炎併発の危険も多い。胃ろうは患者さんの苦痛は少なく、肺炎を併発する頻度も少ないなどの利点はあるものの「胃に開けた穴から食べ物を入れるなんて非人間的だ」などの批判に加え、最近は造設の後、経口摂取が期待できる場合に限るなどの制約が設けられました。