それから半年近く、四郎と治美のイタチゴッコが繰り広げられた。妻を説得して、なんとかアルコールから抜け出させようとする四郎。彼の説得を受け入れるフリをしながら、抜け道を探して飲み続ける治美。

四郎は、治美も心配だったが、それ以上に愛美が心配だった。家で食べるものはシリアルか冷凍食品。母親はいつも飲んだくれていて、ろくな話もできない。

自分には仕事があり、家のこと、愛美のことにさける時間は限られている。どうにか治美に元に戻ってもらいたいと必死だった。説得をして約束をさせる。たとえば一日ワイン一本以内にする、とか。

そのときは、治美は「うん、そうする」と答える。

だが本心ではない。この話が終わって早く飲みたい、そう考えての返事である。

「本当に約束するね」といわれれば、「本当に約束する」と答える。その五分後には四郎に隠れて飲むのである。

やがて四郎は、週に一度か二度は夕方帰ってきて、治美と台所に立つようになった。二人で夕飯を作るのである。治美は、残業をやりくりして帰ってくる夫に申し訳ないと思う。

思うのだが、お酒は止められない。それがアル中というものだ。このときはまだ四郎にはそれがわかっていなかった。なんとか自分の努力で妻を救い出すことができないかと思案に思案を重ねていたのだった。残念ながら、そうした努力はすべて無駄に終わる。

ついに四郎は意を決し、職場のカウンセラーに相談にいった。そこで初めて、アルコール依存症がどんなものかを教えられたのである。

もう、自分の妻は飲むこと以外考えられない。あれこれ説得しても無駄だと悟った。専門の病院に行くしかない。いくつか紹介された病院の中から、自宅から比較的交通の便のいい千里浜を治美が選んだ。

次回更新は3月23日(月)、21時の予定です。

 

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