さて予想通り挨拶もしてこない部員を集めて、初めて野球部員の前に立った時、それまでM中学校野球部に抱いていたイメージとはまったく違うことを悟った。

三年生はたったの三人で、キャプテンはW。三人の中の一人Nは、体重百キログラムはあろうかという巨漢。もう一人Yは捕手なのにキャッチャーミットのポケットを潰してしまう野球ド素人。

二年生は七人。エースAを含めてみんな細くて小さくて…M一人がゴツい。

T中時代に抱いていた、

「M中の選手は、小さくても身体能力は高く、向こうっ気が強い」といったイメージは完全に崩壊した。

一人一人自己紹介をさせた後、“野球部員心構え”を提示して目指す野球部像を話して聞かせた。

その直後、Kがこんなことを言ってきた。

「先生、去年までは練習試合をほとんどやってくれなかったんですよ。今年は練習試合をたくさんしてください」

「おいおい、練習試合だけ増やしても大会で勝たないとダメだろう?」

と言った。ほったらかされた野球部は概して目標も低く、非行に走る生徒がいる場合も多いが、M中野球部には非行に走る部員はいないようだ。

これだけは幸運だった。

さて、鳴り物入りの一年生の中で野球部には何人入部するかな?

仮入部の期間を経て入部したのは六名。しかし、そのうちの二人の男子生徒は来たり来なかったりを繰り返し結局来なくなったので、江川、三谷、山本、中川の四人が確定した。

「この子らを県大会に連れて行きたいけど…」

よく見ると…江川と三谷は、身長はまずまずだがお腹が突き出ている。

「この子らは、ひたすら“走れ、走れ”」だな?

特に、恰幅のいい三谷には、

「毎日、体重計に乗りなさい。減っていようがいまいが、とにかく『減らすぞ!』という意識付けをしなさい。それと、ジャンクフード、炭酸飲料の類いは厳禁だよ」

と言ったが、家庭での生活については私が一つ一つ監督するわけにもいかず…母親にはお願いしておいたが、どこまで自己管理できているのか。

フリーバッティングをさせたら三年生よりも大きな当たりを飛ばす力があるのに、練習に毎日参加しない彼をレギュラーにするわけにはいかなかった。

私にできることは限られている。担当する教科の学年経営、生徒指導、そして部活動。

しかし、望んでいた野球部顧問になったからには、

「この子らをどこに出しても恥ずかしくない野球部にするぞ!」

という強い決意はあった。休日返上で練習をし、練習試合を組んだ。一緒に練習するにつれ、だんだんと練習風景も野球部らしくなり、声も出る活気あるチームになりつつあった。

意識付けはできつつあったし、休日の練習にはAのお父さんがコーチとして参加してくださったりもしたが、如何せん力不足…練習試合をしてもなかなか勝たせてもらえなかった。

 

👉『教育は人なり』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】元カノに触った手で触れられるのが嫌で、夫の手を振り払ってしまった。帰宅後、ドアを閉めると同時に激しくキスされ…

【注目記事】彼女から自殺をほのめかすメールが毎日のように届いたが、ただの脅しだと思い無視し続けてしまった。その結果、大学の卒業式当日に…