「嬉しい?」
「雪野さんの家での様子とか全然知らなかったからさ、僕のことも話してくれるんだなーって思って。僕だけ仲がいいと思っていたらちょっと寂しいでしょ」
「そんなわけないでしょ、黒田くんは大事なお友達だよ」
「……ありがとう」
大事な、という言葉に心が喜びで波打つ。長い間一緒に過ごす中で好意的に思ってくれていたのは感じていたけど、言葉にされたのは初めてかもしれない。
照れ臭くなって雪野さんと目が合わせられず、前を向くと微笑んでいる雪野さんのおじいちゃんとミラー越しに目が合って、顔から火が出るんじゃないかと思うくらい余計に恥ずかしくなった。
「黒田くん、これからも雫と仲よくしてやってくれると嬉しいな」
「──はい、それはもちろんです」
大学までは車で三十分くらい。その後の道中は、雪野さんの小さいころの話とか、おばあちゃんがどんな人かとか、そんな他愛のない話を楽しんだ。おじいちゃんとおばあちゃんに彼女はとても愛されていて、今はすごく幸せに暮らしているということがひしひしと伝わってきて、僕の心まで温かくなった。
「ここだね、着いたよ。大きくてきれいな学校でいいじゃないか」
駐車場に停めた車から雪野さんのおじいちゃんは降りて、校舎を見上げている。
「わー! 広いね、すごいね大学って」
雪野さんも車から降りて、目の前に広がる風景に目をキラキラと輝かせている。
「……あの、今日は本当に送っていただいてありがとうございました。もしよければこれ、みなさんで食べてください」
「そんなそんな、逆に気を遣わせてしまったかな……。本当に君はよく気が利く子だね。ありがとう」
少し驚いた様子で僕の手元の紙袋を見ると、遠慮がちな笑顔で言う。そして僕にだけ聞こえるような小さな声で耳打ちをする。
「元気そうに見えて、ときどき寂しそうな顔をしているんだよ。黒田くんの負担にならなければ、これからも気にして一緒にいてあげてくれないかな」
「負担なんて思いません。僕だと力不足だと思いますけど、そのつもりです」
「……二人とも何話してるの?」
「いや、なんでもないよ。そろそろ行こうか」
「うん?」
大きく手を振って僕たちを見送ってくれた雪野さんのおじいちゃんは、僕の言葉に安心してくれたのか、車内にいたときよりも明るい笑顔だった。彼女のことを負担だなんて思ったことはないし、きっとこれからもそれは変わらない。
次回更新は3月18日(水)、20時の予定です。
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