【前回の記事を読む】部屋に父を置いて、1人で逃げてしまった…火の回りは早く、家は全焼。その後、病院で見た父は、もう既に…
第四章「何もない」
「黒田くん、おはよう」
「──雪野さん!」
校門の手前で呼ばれて振り向くと、声の主は雪野さんだった。昨日まではうっすら残っていた雪はもう溶けていて、今朝は久しぶりに暖かい。
「……久しぶりだね」
最後に彼女と会ってから一か月半くらい、電話をかけた日からはちょうど一週間がたっていた。いつものように優しい笑顔を見せてくれているが、もともと細かったのに以前よりも痩せていて、それが痛々しい。
「もう学校に来られるの?」
「うん、やっと引っ越しが終わって」
「そっか。その……大丈夫、ではないよね」
「……四十九日が終わったばっかりで、まだちょっと落ち着かないかな」
「そう、だよね」
「電話、本当にありがとう」
「え?」
「本当はね、このままずっと休んでいようかなとも思ったんだけど、黒田くんから電話をもらって、やっぱりみんなと一緒に卒業したいなって」
くしゃっと満面の笑みでそう話してくれた。あの日勇気を出して電話をしてよかったと心から思えた。
「みんなも雪野さんが戻ってきてくれて喜ぶよ」
「うん、そうだと嬉しいな」
二人で並んで教室に向かっていると、廊下の突き当たりに隼人が見えた。
「おーい、隼人!」
きょろきょろと左右を見渡したあと、振り向いて僕たちに気づいた隼人は手に持っていたカバンを落として目を丸く見開いていた。隼人もずっと雪野さんを心配していたから、朝のうちに会えてよかった。
「──雫ちゃん! え? 大丈夫なの?」
「おはよう、佐竹くん。黒田くんから、佐竹くんも心配してくれていたって聞いたの」
「そんなの当たり前だよ」
「ありがとう」
「もうこのまま雫ちゃんに会えないまま中学卒業しちゃうんじゃないかって思っていたから、俺……」
隼人は嬉しさで涙ぐんでいた。おろおろとどうしたらいいかわからない様子の雪野さんを見て、なんだか以前のような日常が戻ってきたようで、心が温かくなる。
三人で少し話したあと、教室に入ると雪野さんの周りにクラスのみんなが集まってきた。注目が集まったことに最初は戸惑っていたけど、みんなが待ってくれていたことを嬉しそうにしていた。
もう卒業も間近ではあるけど、その日を境に彼女とクラスメイトの距離はより近づいたようで、以前よりも友人たちに囲まれて笑顔を見せてくれる回数が増えたと思う。
彼女が感じた恐怖や悲しさが完全に消えてしまうことはないと思うけど、少しずつでも彼女が元気になって、このまま笑顔でい続けてくれるといいなと、そう願っていた。