【前回の記事を読む】AIがいかに綺麗な文章を生成しても、時間的連続性に厚みがない。人間固有の、複雑でとらえどころのない、この営みは何だ――
第1章 出し抜けの受注
2050年11月ネオ東京
セミナーの会場で、璃子はプロジェクターで投影された画面に目を見やりながら解説を始めた。この日のテーマは「超量子コンピュータによる需要予測」についてであった。
「超量子コンピュータの導入で需要予測の精度は格段に向上します。需要予測の精度が低いと緊急出荷が多くなり、多頻度小口型の物流に頼ることになります。
しかし、量子コンピュータで精緻な予測が可能になれば、AIの判断のもとに最適配送を実現できるようになります。すでに巨大物流センター『ロジマザー』ではAI物流センター長『トリプルミュー』が自律的に物流システムの効率化を実現しています」
璃子が巧みな話術で受講者を魅了しながら物流改善の方策を説明すると、会場のあちこちで真剣な眼差しで参加しているセミナーの受講者のほとんどが頷いていた。
「オブソリュートストックは一般的な在庫コストとは違うサプライチェーン上のコストです。デッドストックのコストは財務会計上は明確化されません。
また、生産部門からも販売部門からも完全には管理できない在庫となります。
つまりオブソリュートストックを回避するにはSCMサプライチェーンマネジメントの緻密な構築と情報共有の徹底が不可欠となるのですが、これが最新物流センターでは一瞬のうちに可視化されるのです」
「オブソリュートストック、イコール商品価値のなくなった貯蔵品を最小限にすること」でキャッシュフローを改善することが製造業で注目されている。
原材料の調達、製造、商品の配達といった一連の流れの最適化を図るSCMが物流センターで自動最適化できれば、それこそ革命だ。それを可能にするAIである。