第1章 2006

建物のレプリカ(記念プレート)

急に旅に出るのはいつものことであるが、今回はあいにく常宿のホテルは満室である。

最初の2泊だけはすぐ近くのホテルに泊まり、後で移動することにした。

そのホテルは有名な詩人が住んでいたという建物でホテルの名前もアポリネールというのである。

パリの街を歩くとあちこちにここで誰それが生まれたとか住んでいた、アトリエだったという表示のレプリカがあるビルを見かけることが多い。

それだけのガイドブックも出ているのか、本を片手に歩いている人によく道を聞かれる。

通りを歩いていてレプリカに気付き、立ち止まってじっくり見ることはあるが、あまりそれを探して歩くということはない。

だから何度も来ているパリでも意外に知らなくて、人に聞かれて改めてその通りを歩く時に意識してみたりする。

モンパルナスに泊まることが多いので、藤田嗣治やアメデオ・モディリアーニの住んでいたなんていう通りはさすがに知っているが、それでもそれを見に行くことは少ない。

事前にガイドブックで調べることもどちらかというとしない方で、ただ目的も無しにうろうろしているのが好きなのである。

もちろん地方への旅で、初めて行く土地では見たいもの、歩きたい路地、建物、美術館などは調べるが、それでも念入りにではなくどちらかというと行き当たりばったりである。多分きっちり調べてパリに来る人の何倍も効率の悪い旅だろう。

いつものホテルにチェックインした時「今までどこに泊まっていたの」

「すぐ近くの詩人が住んでいたというホテルよ。入り口にレプリカがあったので聞いたらフロントの人が説明してくれたわ。歴史のあるホテルなのね」

その時フロントの人は言った。

「うちにも入り口にレプリカありますよ」