2013.5 髪

初めて大宮で出会ってから程なく、明愛花は僕の勤める美容室にやってきた。どうやら明愛花は、美容室が久しぶりだったらしい……ここ数年は自分で髪を切っていたという。

「いつも適当に自分で切ってたから……めちゃくちゃでしょ……ごめんなさい……」

「ハハハっ、自分で、これだけ出来れば上出来っ」

そう言うと僕は、ブラッシングしながら、共通の趣味である漫画の話を振る。慣れない場所で、不安そうにしていた彼女はようやく笑顔を取り戻し。

「あっ、そうだ、俺最近、漫画を出版したんだ」

「えっ、うそ! どれっ? 見せて、読みたい!!」

「しゃっ、ちょっと待ってて」

そして明愛花に、持ってきたコミックを渡すと明愛花は「いいな~、私もやってみたいな~」とボソッと呟き。

「えっ、君も描くの?! 今度見せてよ……っていうか一緒にやろうよ」と言うと「私は無理だよ。それに見せられない……」

「えっ、何で……?」

「ヤダッ、絶対見せない」と頑なに拒否される……程なくして、施術が終わって。

「よしっ、終わったよ」と、僕が言うと明愛花は、久しぶりの美容室でカットをし、綺麗に整った自分の髪を見て、嬉しそうに笑みを浮かばせた。

そして僕が「そういえば……お腹空かない? この後ラーメン食べに行こ」と誘うと明愛花の「うんっ、行く」という一言でラーメンを食べて帰る。

明愛花は、男ばかりが集まるラーメン屋には、近付きにくいらしく、食べたくても、普段あまり行けないラーメン屋に誘うと、嬉しそうにしていた。そしてこれがルーティンとなりその後は、2ヶ月に一回のカットを終えると帰りにラーメンを食べて帰るようになった。

 

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