クーカはナビを失っていた。
人は自分の中にマップがあり、今いる場所を示す現在地を無意識に確認しながらマップの中を移動している。
クーカは帰る場所を失ったと思っている。
それは世界を失った感覚で、全体を感じることができない無限の中を浮遊している怖さだった。
ただチッケを思う時だけは現在地がわかった。
クーカはチッケのそばにいるという感覚がある時、チッケの脳に居場所を見つけたと思った。
「お前の存在は俺の存在だ」
その言葉を伝える方法を考え続けているのだが、クーカにはできることが何もなかった。
そしてチッケは、自分の意識が生まれる前にクーカがチッケの意識を操作してくれているのかもしれないと考えたかった。
たとえそうじゃないとしても、クーカはそばにいてくれていると信じた。
机の上のデジタル時計は何年も前から時間を示していない。
電池切れなのかなと放置したままチッケの部屋に置きっぱなしになっている。
ある時、何気なくふと目をやったチッケは小さな声を漏らした。
「あれ、四時って何で? 壊れているはずでしょ? 動き出したって? えっ?」
チッケは嬉しいというより困惑して目をしばたたいた。
クーカは少し誇らしげに
「チッケ、わかったかい? 俺が動かしたんだよ。俺に気づいてもらいたいから」
指先を震わせて時計を握りしめているチッケに向かって、クーカはそう言った。
「クーカが俺いるよってサインを送ってくれているってことかな? 時計を使って……」
クーカのラッキーナンバーは『4』だとチッケにはわかっている。
「どうしてできるの? クーカは電気を通せるの?」
チッケは頬の涙を手のひらで拭って、デジタル時計にポタリと落ちないように気をつけた。
「わけわかんないけど、クーカ。凄いよ。驚かせ過ぎだよ」
とやっと声を絞り出した。
チッケは人が死ぬって何だろう、何のためだろうと疑問に思っている。生きることよりむしろ大切で意味深いことのような気がしている。
死亡判定は、呼吸の停止と心停止と瞳孔の散大を医師が確認した時に行われ、死亡診断書に記載される。
ところが身体全てがピタッと止まるわけではなく、臓器移植手術もできる。
細胞の動きも止まってはいない。
人は自分を壊し新しいものを取り入れながら生きているというこの細胞の入れ替わりは、いつからか無限に続けられてきていて、これからも続けられていく途方もない繰り返しだが、この細胞達の超ミクロの世界で素粒子はそれこそ何にでもどこにでも繋がりながら、飛んだり流れたりして浮遊しているのではないか?
全体では、死と生の境界はなくただ繋がりながら繰り返す営みが一つあるだけなんだと、チッケは考えている。
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