細胞障害性抗がん薬の時代
細胞障害性抗がん薬は、DNA(デオキシリボ核酸)の合成や複製を阻害して細胞増殖を抑制する薬剤と、細胞骨格の一つである微小管 (註2)に作用して細胞分裂を阻害し細胞増殖を抑制する薬剤がある。
前者には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、重金属化合物、トポイソメラーゼ阻害剤があり、後者には、ビンカアルカロイドとタキサン類がある。
抗がん薬の第1号であるナイトロジェンマスタードはアルキル化剤で、アルキル基と呼ばれる塩基がDNAに結合して細胞分裂を阻害する。
わが国における第1号の抗がん薬であるナイトロミンも同じ種類の薬剤である。1960年代に開発されたアルキル化剤のシクロホスファミドは現在も使用されている。
1950年代には、DNAの合成に必要な葉酸代謝を阻害するメトトレキセートやピリミジン代謝を阻害するフルオロウラシルなどの代謝拮抗剤、1960年代には、マイトマイシンCやブレオマイシン、ドキソルビシンなど抗がん性抗生物質が開発された。
マイトマイシンCは1955年に北里研究所の秦藤樹博士らによって、ブレオマイシンは1965年に微生物化学研究所の梅澤濱夫博士によって創られた薬剤である。
1970年代には、微小管 (註2)の重合を阻害するビンカアルカロイド、1960年代には、重金属製剤のシスプラチンやカルボプラチン、トポイソメラーゼⅡ阻害剤のエトポシドが開発承認された。
プラチナ製剤のシスプラチンは、1960年代に開発が始まったが、強い腎毒性のために開発が中止され、その後大量の水分補給によって毒性を克服、1978年に米国で、1984年にわが国で承認され、各種がん治療のキードラッグとなった。
註1:ドライバー遺伝子変異について。がんは、遺伝子の異常(変異)によって起こるが、がん化に関連する遺伝子には、細胞増殖に促進的に働く〝がん遺伝子〟と、逆に細胞増殖に抑制的に働く〝がん抑制遺伝子〟がある。これらがん遺伝子やがん抑制遺伝子に変異が生じ、がんの発生及び増殖に直接寄与する遺伝子のことをドライバー(運転手)遺伝子変異という。
一方、がんの発生とは無関係に起こる遺伝子変異はパッセンジャー(乗客)変異と呼ばれる。
註2:微小管は細胞骨格の一部を形成し、細胞の形状の維持、細胞分裂、物質輸送、細胞運動など多岐にわたる機能を担っている。微小管の基本構成は、α-チューブリンとβ-チューブリンというタンパク質からなり、これらの重合と脱重合を繰り返しながら細胞内での役割を果たしている。