第三章 がん薬物治療の進歩
がん薬物治療の変遷
第1次世界大戦中に化学兵器として開発されたマスタードガスの細胞毒性を利用して作られたナイトロジェンマスタードが1964年に抗がん薬の第1号として登場した。
これが“がん薬物治療”(化学療法とも言う)の始まりで、手術治療や放射線治療から半世紀以上遅れてのことであった。
ナイトロジェンマスタードに始まった抗がん薬は、細胞の分裂・増殖を阻害する薬剤で細胞障害性抗がん薬(殺細胞性抗がん薬とも言う)に分類され、その薬剤を用いたがん薬物治療が半世紀続いた。
そして、21世紀になって、がん薬物治療に新しい歴史の幕が開いた。
それが、分子標的薬の出現であり、さらに免疫チェックポイント阻害剤の登場である。
この変革は「がん薬物治療のパラダイムシフト」と言われる。
細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤の違いを図3に示す。
写真を拡大 図3 がん薬物治療の種類
細胞障害性抗がん薬は、細胞の分裂・増殖を抑えて細胞死を起こさせる薬剤で、がん細胞だけでなく、正常細胞も攻撃する。
分子標的薬は、特定の遺伝子異常(ドライバー遺伝子変異(註1))のあるがん細胞を選択的に攻撃する。
免疫チェックポイント阻害剤は、患者が持っている免疫細胞(Tリンパ球)に作用して、それを活性化し、活性化されたTリンパ球ががん細胞を攻撃する。
したがって、細胞障害性抗がん薬や分子標的薬ががん細胞を直接攻撃するのとは全く異なった作用メカニズムである。
以下、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤に分けて説明する。