「冬はこんな感じで豪雪地帯となってしまいますが、夏は涼しくて、本当にいい所ですよ」
「そうですね。避暑地には最適でしょうね」
美羽たちのやり取りを聞いていた富戸木は、真っ白に染まった空を仰ぐ。さほど雪の降らない地域で生活をしているので、テンションが上がっている様子だった。
「なーんか、うれしいなぁー」
たまの雪なら、たのしいかも知れないが、地元に住む人々とっては、むろん歓迎されるわけもない。富戸木は弾むような足どりで、おぼろげに湯気の立つ湖面へと走り寄った。
――と、そのとき。
「あぶないっ」
これまで上機嫌で応対していた高岡が急に声を荒らげたので、富戸木は、あわあわと手でバランスを取る。そのただならぬ語勢で注意されたのを見て、美羽は理由を尋ねてみた。
「あぶないとおっしゃるのは、滑った拍子に落ちるからですか」
「すいません、つい大声を出してしまいまして。申し遅れましたが、湖には恐ろしい生き物が棲んでおりますので、どうぞ近くに寄るのはお控えください」
高岡はとり繕うような笑みを浮かべると、丁寧な口調で言いなおした。
「恐ろしい生き物ってなんです? ピラニアや電気ウナギですか」
美羽も覗こうとしたが、今しがた相方が警告されたばかりなので諦めた。
「アリゲーターです」
「アリゲーター?」
アメリカ南東部の湿地や、河川などに生息する巨大爬虫類。当然ながら動物園くらいでしか見たことがなく、こんな間近で、しかも水槽もなく普通に飼っているのが、にわかに信じられなかった。
「ここは温泉が湧く地帯でありますから、冬眠をさせず、番犬の代わりにしているそうです」
遠くへ目をやると、たしかに不気味な影が、うねりながら、水面を泳いでいる。動きこそ速くはないが、一瞬にして湖に引きずり込まれようものなら、人類が太刀打ちできない領域にて決戦を強いられるのは自明だった。
「ひぇー、おっかねー」
富戸木は橋の中央へ戻ってくると、今度は美羽の後ろにくっついた。