【前回の記事を読む】「悲鳴が聞こえませんでしたか」中世の城塞都市のような堅牢で荘厳な建物は、得体の知れないモノを研究する施設に感じられ…

第一章 爬虫類の棲む屋敷

「早くに到着していただき助かりました。じつはこの大雪で葬儀場の方たちが立ち往生してしまい、先に予定を繰りあげて遺言状の公開となってしまいまして――」

高岡は彼女の持つ、モデル顔負けのルックスに興味を示しているようで、何気に横目でうかがっていた。

「今からって、まだ荼毘にも伏していませんのに、慌ただしすぎはしませんか」

「みなさま、たいへんお忙しいらしく、どうにかして今日中に済ませてほしいとのご要望でございまして……」

「でも故人に対し、あまりにも失礼ですよ」

憤る美羽の長い睫毛に、小さな雪が積もっている。高岡は指で払ってあげたくなったのか、そっと手を伸ばそうとするも、急いで引っこめた。

「ここだけの話ですが、みなさま父親に対し、反感を抱いていた模様でして……」

「……そうなんですか」

釈然とはしないが、それぞれに家庭の事情があるのだろう。これ以上、言葉を挟むことなく、美羽は正面へと向きなおった。

「さて、橋を渡りきると、山吹さまのお屋敷となります。携帯は通じませんので、どこかへ連絡をなさりたい場合は、中にある電話機をご利用くださいませ」

「えええっ、マジっすか。Wi-Fiの環境なんかは――」

そのような事態になるのを初めて聞き、富戸木は慌ててポケットからスマートフォンを取りだす。

「Wi-Fiですか。もちろんないですよ」

高岡が答えると同時に最後のアンテナマークが消え、完全に電波が途絶えた。

「ひえー、本当だ」

「不都合はないし、いいんじゃないかしら」

美羽たちは高岡に先導をされ、湖に架かる横幅五メートルほどの橋を渡っている。最初は降雪によりぼやけていたが、だんだんと屋敷に近づくにつれ遠近感を失い、こちらからではなく、向こうから迫ってくる錯覚に陥った。

「上空写真で事前に調べていたのですが、いざ目の当たりにしたら圧巻のひと言ですね」

「屋敷だけでも、ほぼ武道館と同じ広さと伺っておりますので、周囲の湖まで合わせると、とてつもない面積なのでしょうね」

「そんなに広いのですか」

対比物のない山中に建っているせいか、ただ漠然と、大きいとは感じていた。だがよもや、邸宅だけで闘技場サイズとは信じられず、美羽はパチクリとブラウンの瞳を瞬かせた。