このスタッフが私のテーブルにやってきて「今度の方はお話を楽しみたい方のようですのでこちらのテーブルにご一緒させていただいてよろしいでしょうか」。私は快諾。スタッフの言ったように私たちのテーブルはいつも会話が弾んだ。ショートステイにしては長い三ケ月を楽しむことができた。「やさしさ」の奥には「人をよく見る」があると学んだのである。

この章を書いている時、思い出す出来事一つひとつの光景が甦ってきて「あたたかい」楽しい時間であった。ここに書き切れないエピソードはまだいっぱいあるが紙面の関係上割愛するのは残念だ。私はこのホームで最期を過ごせて幸せだった。ほんとうにありがとうございました。

ホーム小話 紫式部か はたまた清少納言?

年を取ると「寒がり」になる傾向はある。しかしコーディネートには全く無頓着だ。せめて「こうで ねえと」くらいは考えてほしいところだ。柄物に柄物が重なり、さらにその上にまっ赤なカーディガン。刺しゅうのTシャツに花柄のブラウス、その上に縁取りした紫色の上着。

「今日も十二単でお出ましね。紫式部かと思ったわ」。車椅子の彼女には「清少納言ね、知的で優雅でいらっしゃる」

十二単が行き交うホームの冬のダイニングである。

第二章 よりよい老人ホームにする手掛かり

老人ホームの働き方改革 一人の入居者からの要望、提案

この章は「私という北沢美代からの要望、提案」であることを理解していただきたい。

集団生活が苦手だった私がここまで手を染めるのかという思いはずっともっていた。介護事業に精通しているわけではない私が働き方改革にまで踏み込むことは論外、僭越(せんえつ)ではないかとさえ思う。

しかし私が本を書いてきた目的は「介護」「老人ホーム」の情報を社会に発信することだった。日々奔走するスタッフたちを見ているとその人々の働く環境づくりまで考えざるを得なかったのである。「一入居者の目線」は貫いてきたところなのでやはり書くことにした。

 

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