「新聞がねえよ、誰が持って行ったんだよ」
「昨日眠れなかった、隣の部屋がうるさくって」
「今日僕ねえ、お母さんと出掛けるんだよ」
「見て見て、孫の動画。お嫁さんが送ってくれるの」等々。
そうしていると自然に利用者さんと顔を合わせる回数は多くなるし、会話も増える。少しは好かれているのかもしれない。そんなこんなで、流し目の松田さんとも「いい感じ」なのだし、私が直接関わらないユニットの利用者さんともちょっと仲が良くなる。おごっちゃいかん、と思いながら過ごしている。
本当の私は、一人で過ごすことが好きで、心の中は結構暗い。しかし、
「私って一人が好きで心の中は漆黒なんです」
とマイナスの自己アピールを利用者さんにするのも社会人としてちょっと違うと思うので、
「おはようございます、体調はいかがですか」
とにっこり笑って尋ねる。
その繰り返しで「元気な挨拶の明るいいろはさん」という感じで職場では通っているような気がする、多分。というかそういう感じを希望する。
最近は駐車場から施設へ行く途中、拓也さんが喫煙所でタバコを片手に「投げキス」をするようになってきた。
「拓也さん、おはようございます、あはは、ありがとうございます」
と毎日返答するのだが、ううむ、ううむ、と心の中では唸っている。
幸い見ている人はいないが、なんかそれって、と私は思っている。
なんかそれって、から一歩踏み出して考えると、「あの2人なんかちょっと怪しいですよねえ」みたいなことにならないか。
困っちゃうのよ、それ、と思う。
次回更新は3月10日(火)、20時の予定です。