国境周辺ではフルグナがいろいろ問題を起こしていて、こちらから出兵するべきだ、などと言われていた。さらに、遠い国では株価が大暴落したとかで、その影響で、雉斉の経済もこれからますます悪くなっていく、ということだった。
その日の午後、急な来客があった。客は四十代ぐらいの女性で、目元が星炉さんに似ていて、星炉さんのことを「おばさま」と呼んだので、姪だろうと思った。
女性は体にぴったり合った白のスーツを着ていて、金の腕時計や赤い革のハンドバッグは、いかにも高そうだった。でもそのわりには化粧は地味で、髪も短かった。職業婦人かな、と思った。
わたしは客間に茶菓を持っていったのだが、そのとき、女性から話しかけられた。
「あなたは、落雷事故のあった城屋の工場で働いていたそうね」
「はい」
「わたしは梁葦麻菜美(やないまなみ)といいます。ドキュメンタリー映画をつくっているの。落雷事故もひどかったけど、それ以上に、工場での待遇はひどかったそうね」
「……いえ、あのー、城屋の工場はひどい所ではなかったです」
梁葦さんは、疑うようにわたしを見た。
「わたしは他の工場で働いた経験がありますけど、そこと比べても、城屋の工場はよかったです」
梁葦さんはなおも疑う目で、
「一日何時間働かされていたの?」と聞いてきた。
「十時間ぐらいです」
「それで、月給はいくらだったの?」
「だいたい二十万貫です」
梁葦さんは目を見開き、芝居がかった驚き方をして言った。
「ずいぶん安いじゃない。そんな給料で、あれほどきつい仕事をさせられていたの?」
「……」
わたしは梁葦さんの目をまっすぐに見て、心の中で、「安い給料でも真面目に働く人がいるから、あなたみたいな人が贅沢に暮らせるんですよ」と言った。梁葦さんには通じなかったが、星炉さんは、なにかを感じたようだった。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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