「やっぱり、持っていないじゃないか。それに日本人が、あんな危険地帯で倒れているはずがない。お前はマヤタ人だろう。日本人とさえ名乗れば、どこのシェルターでも入れてくれるからな。
だから最近、アジア系難民が日本人と偽ってシェルターへ入り込もうとする事案が急増しているそうだ。中でもマヤタ人は、なりすましの名人だからな。このわたしの目を、ごまかせるとでも思ったら大間違いだぞ。わたしは日本人をよく知っている。
お前の目、お前の髪、お前のしゃべり方、すべて日本人と似てはいるが、日本人ではない。よくできたニセモノだ。お前の正体は、狡賢いマヤタ人だ!」
ベルガーは憎しみのこもった目で、一方的にまくし立てた。
「でも、わたしは日本――」
ルリエが言おうとするのを、ベルガーは冷酷な目を向けてさえぎる。
「話は本部で聞いてやる。このマヤタの小娘を、国家転覆の容疑で逮捕しろ」
後ろにいた部下が、手錠を取り出した。ルリエには、何がどうなっているのかさっぱりわからない。ただベルガーの目が恐ろしくて、声も出なくなってしまった。
「ちょっと待ってください。ベルガー中尉」
白髪頭の医師が、不機嫌そうに前へ進み出た。
「わたしは、保安部長のリヒター大佐とは旧知の仲でしてな。いくらマヤタ人だからといって、こんな病気の子どもをいきなり逮捕するのは、いささか乱暴じゃありませんか。それに、この子はまだマヤタ人と決まったわけではありませんぞ」
「お言葉ですが、ドクトル・ぺセロ、あんな危険地帯に日本人がいるはずがない。それに日本人なら、国籍証を持っています。つまり、この小娘の言っていることは真っ赤なウソで、マヤタ人であることを隠すために日本人と言い逃れているだけだ。間違いなく大ウソつきのマヤタ人だ。マヤタはわがエメラルド国の大敵、緑を食い荒らす野蛮な害虫どもだ。
子どもだからといって手加減していたら、そのうち取り返しのつかないことになりますぞ。
そうなったとき、あなたは責任を取れるんですか。害虫の子はしょせん害虫ですからな。こんな簡単な理屈がわからないドクトルとも思えませんな。いいから、連れていけ!」
ベルガーは冷酷に言い放つと、部下に顎で指図した。二人の部下はルリエの手を荒っぽくつかんで、ベッドから引きずり下ろそうとする。
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