第1章 身近なAIに見る原理

1 カーナビ

「オラクル」としてのカーナビ

現代生活を送る私たちの多くが日常的に接しているAIの一つは自動車のカーナビです。

カーナビは比較的簡単なAIの例だと言えます。AIの大まかな分類としては、私たちの質問に答えてくれる機能を持つAIです。

今日はどこそこに車を運転して行きたいが、どの道を通っていけば良いかという私たちの質問に、これこれの経路が良いと答えてくれるわけです。その限りではカーナビはあくまでも私たちにとっての道具であり、自律的な主体性はありません。

AIについての権威の一人であるスウェーデンの哲学者ニック・ボストロムは、このようなAIのカテゴリーを「オラクル」と呼んでいます。

後ほど取り上げるChatGPTのような高度なAIも、その原型は、どんな質問に対しても答えを教えてくれる神託(oracle)だということになります。

ところで、GPSを使ったカーナビが登場した1990年ごろ以前に運転を始めた世代の人たちは、見知らぬ遠くの場所まで車で旅行する際に、地図や道路標識の助けは借りながらも、最後は目的地への経路を自分で探して辿り着くことに習熟していた人が多かったと思います。

それは基本的に必要に迫られてのことで、カーナビの登場でその必要がなくなってからは、私たちの多くは、カーナビなしには、行きつけの場所以外はどこに運転していくことも難しくなったのではないでしょうか。

この間に、都会部を中心に発達した高速道路などの道路網は、カーナビが使用されることを前提にした複雑さを加えてきているように思われます。

私は、数年前にアメリカに出張した際、ニューヨーク市から北に200kmほど離れた町スケネクタディに、ある調査で立ち寄るためにレンタカーを借りました。初めて行く不案内な場所でしたのでカーナビを付けてもらいました。

ニューヨーク周辺の高速道路はさすがにアメリカ第一の大都会だけあって、極めて入り組んでいて、旅行者はカーナビなしでは必ず迷ってしまうほどの複雑さです。

しかし私はカーナビのおかげで無事スケネクタディに辿り着くことができました。