結婚し、凛太が生まれてからは、それがさらに厳しくなった。気づけば、自分の時間など皆無だった。
俺は、ミサトと生活した4年間、日々呼吸ができないような感覚で仕事と家庭のみの生活を送っていた。友人との交流や、俺が人生を楽しむことのほぼすべてを禁じられていた。時間と金を握られていた。
限界になり、ミサトと口論の末、30分だけ散歩に出かけた際など、玄関にチェーンをかけられて締め出されたことがある。そんなに束縛するなら、もっと大事にしてくれと思った。
そんな日々の中、唯一の心休まる時間は、24時間のうち15分だけだった。19時に会社の業務が終了した後、オフィスの2階の隅にある、暗い休憩室で、一人でソファに腰掛けて窓の外の風景を眺める。時おり目覚めたように「ブーン」と鳴る自販機の音がする以外は、全くの無音だ。
逮捕前に俺が勤務していたのは、海岸の近くにある会社だった。海岸沿いに松林があり、それが窓越しに揺れている。風で揺れる松林を見て、風の姿と、圧力と温度を想像し、肌に受けたときの心地良い感覚を想像した。
それ以外は、何も考えない。目を閉じて仕事の喧騒やノイズを冷ます。次第に2歳の凛太の姿が現れる。家庭での唯一の光は、凛太だけだ。彼に会うためだけに帰宅するのだ。
15分間。それが結婚生活で唯一の充電時間だった。
時間が知りたければ、看守に聞けばすぐ教えてくれることがわかった。同時に、自分の体内時計は、太陽の届かない場所では、まったくあてにならないということに気がついた。
留置場で購入したノートに、書き物などをして、2時間ほど経ったかと思い看守に確認したら、まだ1時間だったりする。自分の意識で、時間は延びたり縮んだりする。時間という概念は、もしかしたら人類規模の集団幻覚なのではないか。
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