「これはお祖父さんが大事にしていたものだよ。都を離れるのでお別れに行ったとき、お祖父さんは病気で床に臥せっていたけれど、これをリョウにと言って渡してくれた。お祖父さんからお前への形見だ。長安の石屋は伯父さんが継いでいるから、いつかこれを持って、そこを頼っていきなさい」

リョウは左腰の革帯から飛び道具の石鑿を一本引き抜いて床に置き、代わりにその綺麗な石鑿を差すと、それはすっぽりと鞘に納まった。そのときリョウの後ろで、ゲルの入り口の幕を上げる、がさりという音がした。

「危ない」

母がそう叫んだのと、矢が放たれたのは同時だった。反射的に身をよじったリョウの傍らをかすめ、矢は咄嗟にシメンを庇った母の肩に突き刺さった。さらに敵は刀を抜いてゲルの中に足を踏み入れてきた。

リョウは今置いたばかりの石鑿を拾い上げると、迫る敵の両眼の真ん中をめがけて「エイッ」と投げつけた。しかし、石鑿は腰を引いた敵の兜に当たって跳ね返る。改めて刀を振りかぶって迫る敵の足を目掛けて、二本目の石鑿を素早く抜いて投げつけると、今度は見事に腿に突き刺さった。

勢いがついてツンのめりながら倒れてきた敵は、支柱に激しく身体をぶつけてゲルが揺れた。支柱に掴まり、怒りの形相で身体を起こした敵が振り下ろした刃を、リョウはかろうじてかわしたが、さらに敵は逃げようとする母の背に斬りつけた。悲鳴を上げて母は倒れた。