「そうそう、付き合っている人がいないんだから、告白を受けてみたら?って言ったんだよね。でも、それはできないって。他に好きな人がいるのかもなあと思ったくらいで、その点は私も特に気にならなかったんだけど、その後がさ」

「後?」

早川は周囲を見渡すと、顔を近づけて声をひそめた。

「会えなくなるから、もうメッセージもしないでブロックしようかなって」

「……え?」

ブロックとは、相手からメッセージが届かないように設定することだ。妙というほどでもない。特段珍しい行為でもないからだ。最近の若年層は幼少期からスマートフォンを所持している人も少なくない。

そうなると必然的に、メッセージアプリに登録される友達の数が増えていくのだ。あまり連絡を取らない、何年も会っていない友人は、友達の数を整理する意味でも、ブロックすることは珍しいことではない。僕だってしたことはあるし、早川だってあるだろう。

しかし、僕と早川がそれを妙だと感じたのは、それを遥香がしようとしていたことと、彼女の発言だ。

僕の中の遥香は、誰にでも優しく接する女の子だ。友達の数を整理するというだけで、そこに特別な意味がないことはわかっていても、ブロックという友人を遠ざける行為を、遥香が進んでするとは、どうしても思えない。これは早川も同じ意見だろう。

ただ、誰にでも優しく接する遥香だからこそ、本心を誰にも晒すことがないともいえる。付き合っていた僕にすら見せていない一面があったのだとしたら、早川が知らないのも無理はない。

僕らが妙だと感じたのは、僕らが見ている遥香のほんの断片からの推測に過ぎないのかもしれない。仮にそうだとしたら、僕にも気を遣っていたのだろうという、僕が少しショックを受ける程度の規模感だ。

本当に妙なのは、もう一つの方だ。遥香の発言にあった『会えなくなる』という表現についてだ。しばらく学校を休むだけの予定ではなかったのか。登校すればまた会うことはできるだろう。

そうではなく、入院した頃に遥香の中ではもう、会うつもりがなかったのか。それとも、会えない事実ができたのか。

そもそも、遥香が入院したのは本当だったのだろうか。遥香が妊娠した事実は、どうしたって教師たちには知られてしまう。生徒に知られるのも時間の問題だ。だから好奇な目に晒される前に、遥香は入院という理由で、学校を休んだ。

子供をおろすことで、精神的に参ってしまう女性の話も、なんとなく聞いたことがある。遥香はまさにそれで、学校に行ける身体なのに、心が拒否してしまったのだろうか。

もしそうだとしたら、僕は彼女の大切な青春時代の時間を奪ってしまったことになる。そう思うと、血の気が引いていくようだった。なんとしても、遥香に会って謝りたい。

次回更新は2月24日(火)、11時の予定です。

 

👉『僕が奪ったきみの時間は』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】愛妻家のはずの夫が初めて朝帰り。「ごめん、これ見て」と見せられた動画には、ホテルでされるがままの夫と、若い女が…

【注目記事】3月上旬、がんの手術のため妻が入院。腫瘍が3カ月で約3倍の大きさに。全部取り切り、何も問題はないと思っていた、その時は。