【前回の記事を読む】クラスメイトを妊娠させた後、転校することに…同じ時期に彼女は入院して、音信不通になった。

第三章

「僕、転校したんだよ。十月くらいかな。だから卒業式にも参加してないんだ」

 早川は焦ったような表情で慌て始める。

「え! ごめん。ああ、そうだ。そうだったね。今思い出した」

「いや、全然。でも緑川さんのことが少しわかってよかった」

大きな収穫ではなかった。早川は遥香と仲がよかっただけに、もう少しなにか情報を得られるのではないかと期待していたのだ。遥香が突然スマートフォンを変え、メッセージアプリのアカウントを消した理由は不明だが、それはなんとなくわかる。

妊娠という大きな事態に直面して、周りに迷惑がかかると思い、連絡を断ったのではないだろうか。心優しい遥香なら納得できる行動だ。

僕が自分の中でそう解釈をした刹那、早川はとんでもないことを言い出した。

「そういえば、私が最後にメッセージのやり取りをしていたとき、男子に告白されたって言ってたな」

「……え?」

「なんか、告白されて悩んでたらしいよ。そのときはもう入院していた頃だったから、直接会って話したわけではないんだけどね」

心臓が飛び跳ねた。初めての感覚だ。遥香は大人しく、交友関係も狭いため、他の男子とどうこうといった話は聞いたこともないし、心配したこともなかった。

「それって、どういう?」

早川は少し顔をしかめたが、遥香に会っても内緒にするという約束のもと、教えてくれた。

「告白したのは隣のクラスの寒川(さむかわ)くんっていう男の子らしいよ。一年生のときに同じクラスで、よく話してたんだって。

向こうもあんまり人前に出るようなタイプじゃなかったから、メッセージアプリでの会話だけで、学校ではほとんど話さない関係だったらしい。でも、入院したての頃、寒川くんからメッセージアプリを介して告白されたんだって」

「寒川くんって誰?」

僕の通っていた高校は一学年六クラスあった。だから、だいたいの生徒の顔と名前は一致する。しかし、寒川なんて生徒はまったく頭に浮かんでこない。少なくとも同じクラスになったことはないのだろう。

「私もあんまり知らないんだよね。なんとなく黒縁眼鏡をかけていて、ベストを着ていたイメージがあるんだけど」

早川のイメージを聞いても、僕の記憶の中に寒川という青年はいない。

「断ったんだって。でも、それでも諦めきれないって言われたらしくて、どう返信しようか悩んでた」

「断ったんだ……」

なんだろう。ひどく心が落ち着いた。荒波を立てていた海が、暴風域を脱したように、突然穏やかな気持ちになった。

「そのときの遥香が少し変だったんだよね」

「変?」