「これ、先生のおじいさんが描いたんですか?」

美南はちょっと嬉しそうに微笑んで、

「そうよ。ノスタルジックで素敵でしょう」

へぇ、と美南の顔を見る晃。ページは注意深くゆっくりとめくられていく。次のページをめくると戦闘機の絵が出てきた。

「これって?」

「ゼロ戦」

「すげー、先生のおじいさん、ゼロ戦パイロットだったんですか?」

「パイロットではなかったんだけどね」

食い入るようにスケッチに描かれたゼロ戦を見ていると、ちょうどチャイムが鳴った。

「はい。先生のお宝でした。もし見たかったらまたいらっしゃい」 

晃は頭をペコリと下げると「あ」と言って敬礼して教室から出ていった。階段で美術室を振り返ると、そこにはスケッチブックを大事そうに抱えた美南が、晃を笑顔で見送っていた。

晃は嬉しかった。教員室でのどうにもならない気持ちはようやく落ち着いて、嫌なことも多いけど、なんか今みたいなのは自分だけの特別なご褒美のような気

がした。

気を取り直して教室に入って自分の席を見ると、そこにはクシャクシャにした沼山から渡されたプリントが、しわが伸ばされて机の上に載っている。プリントの右上には「落とし物」と書かれている。

舌打ちすると不機嫌にプリントを掴んで再びクシャクシャっと引き出しへ突っ込む。

隣席で女子と話していた糸井加奈がいたずらっぽく振り向く。「晃、沼山から課題プリント出されてたでしょう」

「うっせぇ」

「ってことは平均点いかなかったんだね」

「お前だって美人平均いってねぇじゃん」

「ひどっ」

洋子は自分の席から晃と加奈のやりとりを遠慮がちに見ていた。じっと見ていたつもりはなかったが、ふいに加奈が洋子の視線に気づいたかのようにこちらを見たので思いがけず目が合い、慌ててうつむいた。加奈はちょっと怪訝な顔をするが再び楽しそうに晃をからかう。

洋子にとって加奈と目が合ってしまったことは、なんだかちょっとした事故のような、そんな気分だった。

 

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