水面下に沈んでいた登山道は平たんで我々の首の下あたりまであったので、40 キロもの荷を頭上に乗せ、何とか沼の原をわたりきり、広大な化雲岳の裾野に広がるお花畑までのぼり、花の褥にテントを張り一泊した。

翌日、化雲岳に登頂して、重い荷を下ろして、トムラウシ山まで往復し、さらに、化雲岳から白雲岳へと縦走した。途中、東京女子医大山岳部の縦列と遭遇したが、その中に、後に女性で初めてヨーロッパアルプス三大北壁を登頂して有名な登山家となった今井通子氏がいただろうか。

白雲岳の石室のそばにテントを張り一泊し、翌日は旭岳と北鎮岳の鞍部から黒岳に登頂した。現在では黒岳登山には層雲峡から中腹までロープウェイが利用でき、さらに、7合目までスキーリフトが完備されている。

しかし、当時は層雲峡からかなりの急登で広大な北斜面の中腹の尾根に辿り着き山頂までの樹林帯を登りきると山頂からは広大な大雪山のいくつかの噴火口を取り巻く外輪山に取り巻かれた大火口原が広がっている。

深田久弥が記述しているように大雪連峰の山の大きさと巨大な展望に圧倒されるのである。黒岳山頂から旭岳を目指して火口原に降りてゆくとすぐ近くに避難小屋として黒岳石室がある。

小屋の周囲に登山客が食べ残した食品を廃棄してゆく不届きな登山客のせいで、4、5頭の熊がたむろしていることがある。旭岳中腹の石室にも白雲岳の石室にも熊が出入りするので、石室に近付く際にカウベルを鳴らしながら恐る恐る近づかなければならない。

最近では大雪山で登山者が熊に襲われた事例はないが、人跡未踏の日高山脈では山懐のカールにテントを張ったワンダーホーゲル部員が熊に襲われて3人が命を落としている。

テント場に残された食物を狙って、人を恐れない熊が出没しているのである。2025年8月14日知床半島の羅臼岳で登山中だった20代の男性がヒグマに襲われ、翌日、死亡が確認された。

次回更新は2月21日(土)、21時の予定です。

 

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