「でも根本が知ったら怒っぺな。あいつは修也一本だがんな」

「まぁな」

言われて嫌な気持ちはしない。誰もが工藤には根本、という暗黙の了解みたいなものはあった。幼稚園からの幼馴染だ。

「水谷とチャンスがあんなら行げよ。あんな美人いねぇぞ」

「そりゃ、色っぽいとは思うけどさ」

水谷亜美とは中学が一緒だった。背が高く細身の美人だが、女子高に入って何を思ったか山岳部に入部した。地元の高校では頻繁に合同合宿をする。大会でも一緒になるから自然と話すようになった。中学時代はそれほど親しくなかったが、山という特殊な空間で二人が近づくのに時間はかからなかった。

「俺、根本狙ってもいい? お前ら友達以上恋人未満ってやつだろ」

黒田がいやらしい目で愛子を見つめる。そう言われると無性に腹が立った。自分以外に愛子とつき合う人間など想像できない。

「ほらそこ! 工藤に黒田。授業に集中しろ」前田が注意してくる。

「先週3年生が卒業して、この高校ではお前たちが一番上なんだぞ」

「だって、おらまだ子供だもーん」

アニメキャラで黒田が応えると教室内に笑いが起こった。愛子もこちらを見て笑っている。そしてチャイムが鳴り4時限目が終了。腹を空かせた17歳たちが一斉に動き出す。工藤も母親が作ってくれた弁当を手にして立ち上がった。与えられた時間は4時間しかない。

その前に。

工藤はあることを思い出し身の回りを探った。約束していたあれがどこかにあるはずだ。それは手を差しこんだ机の中で見つけた。それをポケットに忍ばせる。

次回更新は2月18日(水)、14時の予定です。

 

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