認知症になっても親は親

北野さんは夫を早く亡くし、今は市営住宅に一人で暮らしています。一人息子は結婚後家族と一緒に近所に暮らしています。

「中畑さん、北野さんは一番に迎えに行って帰りは最後に送ってね」

服部は認知症のひどい北野さんを、自宅に一人でいる時間をできるだけ少なくするため、朝一番に迎えに行って帰りは最後に自宅に送る事にしています。

「わかっていますよ。いつも通りに送迎します」

中畑は一番先に北野さんを迎えに行き、その後残りの利用者さんを順に迎えに行きます。帰りは他の利用者さんを先に帰し、北野さんを最後に自宅へ送りとどけます。

認知症が進んだため、料理やあと片づけ、お金の管理もできません。冷蔵庫の中には鍵、郵便物、財布などがあり、なんでも冷蔵庫に入れてしまいます。

ある日中畑が送迎を終わって施設に帰ってくると、しばらくして北野さんが施設の前を歩いているのが見えました。窓から服部が、

「北野さん、どこへ行くの」

と声をかけると、「どこのどなたか知りませんが、退屈なので今日初めて外へ出ました。ちょっと用事があるので失礼します」

と言ってどんどん歩いていきます。

服部はどこへ行くのか心配になりあとをつけました。すると北野さんはある家の前で止まり、じっと玄関を見つめています。表札を見ると北野と書いてあるので、きっと息子さん宅に違いないと思い、

「あら北野さん、偶然ね、ここで何をしているの」と話しかけました。

「あなたは御近所の方ですか、ここは私の息子の家です」

「じゃあ、中へ入ればいいのに」

「息子の事が心配で来たの。でも何か入りにくいのよね」

服部は北野さんの代わりにドアのベルを押しました。すると牛のように耳と鼻に大きなリング状のピアスをつけた本当に牛のような若者が出てきました。

「えっ、牛。あ、ごめんなさい。この方あなたのおばあちゃんですよね」

「そうっすよ、おばあちゃんどうしたの」

「おばあちゃん、寂しくてここまで歩いてきたようなの。あっ、私施設の管理者の服部です。少しここでおばあちゃんを休ませてからアパートまで送ってくれない」

「いいっすよ。おばあちゃん、入ってお茶でも飲んだらー」

見かけはいかつい牛と思ったけれど、とっても優しいヤンキーな孫でした。人は外見ではわからないなあ、と感心している服部です。本当に人間は外見ではわかりませんよね。

次回更新は1月26日(月)、14時の予定です。

 

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