「確かにいきなり大病院に行っても診察を断られますね。あれはまあ、大して重病でもない人が押しかけたら、本当に治療が必要な人が困るからというわけでしょ」

「しかし血液検査などは大病院であれば待っている間に結果が出るが、町の病院は検査センターに送って結果を待つので3日程度はかかる。重篤な病が隠れていると、その3日が命に関わります。また日本では診察項目が診療所ごとに分かれています。このあいだも知人が転んで頭を打ち出血したんですが、かかりつけ医に連絡すると『ウチは内科なので診られません』と言われたそうです。

外科に電話すると『脳神経外科ではないので』と断られたとか。結局軟膏を塗って自分で手当てしたそうです。こんなふうに原因が分かっている場合はまだいいんですが、症状によってはさらに困ったことになります。患者は素人なので、どこに不調の原因があるのか分かりません。

そこで内科に行ったり胃腸科に行ったり循環器科に行ったりを繰り返さなければなりません。日本の救急医療は世界一かもしれませんが、クリニックの診療項目の細分化は現実に合わず不便です。

そんなふうに専門医を作るのであれば、最初に大病院で総合的な診察を受け、病気の原因をつかんでから町の専門医に行って治療を受ける方が患者の立場としてはいい。病床数の規制があるとか財政上の問題だとかは自分たちの都合で、患者を第一に考えた発想じゃない。つまり順番が逆なんですよ」

「田乃郷さんが知事になれば、大病院は地域住民や老人の認知症患者にも、もっと寄り添い共感した対応をしてもらえるように要請するということですね。政策はよく分かりました。それから田乃郷さんは選挙公報でもう一つ、スローライフの勧めを提案しておられますが、これを説明していただけますか?」

「ちょっと待ってくださいね」

そう言いながら田乃郷は持ってきた紙袋の中からLPレコードを取り出した。

〈おお、これは! 松田聖子のアルバムではありませんか〉

〈レコード、写真が大きいから迫力あるよね〉

 

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