朝晩、寒くなるにつれて、天空の青が深くなってゆく。
屋台を曳いて帰り道をたどれば、闇にしずもうとする街並みが、茜色の光をうけて影絵のように浮かびあがり、東の地平をふり仰げば、赤みをおびた満月が、ゆっくりとのぼって来る。
空にひろがっているのは、宇宙の摂理であろうが、地上には、不穏な影がうごめいていた。
「なあ、何か、やったのか?」
おもちゃ屋のおやじが、耳打ちして来たほどだ。屋台のまわりをとりかこむ、少年飛蝗(バッタ)の数が、倍増している。
「さあ……」
適当にごまかしたが、漁門が、私の一挙手一投足にいたるまで目を光らせるようになったのは、まちがいない。段惇敬(トゥアンドゥンジン)か、管姨(クァンイー)か、湯(タン)師兄か、はたまたその三人全員が、私を疑っているのだろう。
『朱雀』の受けわたしを妨害したのは、あいつであろうと。
誰かが、私の塒をあさった形跡もあった。
―きっとまた、会いに来てくださいね。
毎日のようにその言葉を反芻していたが、洛瑩のいる尼寺には、一度も行かなかった。
もし、飛蝗(バッタ)に見られたら、すべては終わるのである。洛瑩(ルオイン)はとらえられ、人生をめちゃめちゃにされるだろう。
彼女を尼寺にあずけたあと、はたして私は、管姨(クァンイー)に呼びとめられた。
「あんた、もしや、西山楼(せいざんろう)付近に店を出したりしていないだろうね?」
「いや、出しませんよ」
なに喰わぬ顔をしながら、管姨(クァンイー)はこちらの受けこたえに神経をとがらせている。まるで肌を――ほんらい急所があったあたりを――まさぐられているかのようだ。