【前回の記事を読む】真っ赤な夕日が差し込み、バケツに入っていた魚たちが金色混じりの赤銅色に輝いた。「なんて、綺麗だ…」
第1章
幸三は町から遠いので、自転車通学が許可されていた。両親が使用していた古い大人用の自転車にまたがると、足先がようやく地面に届く程度で少し不安定だ。
転倒しそうになりながらもゆっくりペダルを踏み学校から指定された自転車置き場まで来ると、「ガチャッ」とスタンドを力いっぱい立てた。新たな門出に、幸三の胸は期待でいっぱいだった。
校舎は、村の小学校と違って、近年新築され、さらに生徒の増加に伴い増築もされているため、建物も教室も全てコンクリート造りである。これまで木造校舎に慣れ親しんでいた幸三にはそのモダンな造りが別世界のもののようで、村の校舎とのあまりの違いに目を見張り驚いた。
幸三は、校舎に入り、たくさんの生徒でざわつき、混雑している玄関を抜けると、「1年8組」と書かれた下駄箱を探した。そして、自分の名前「平岡幸三」と書かれた、正方形の中が2段に仕切られた靴箱にズック靴を入れた。
1年生の教室は1階、3年生は3階、2年生は2階で、どの教室も横に広い長方形になっており、校庭からの光を十分取り入れられるよう設計されている。カーテンはなく、部屋は明るい。廊下に面し開放された大きな窓には、分厚いガラスがはめ込まれ、丈夫そうな白いパテで固定されていた。
窓枠は、頑丈な鉄製で、群青色に塗装されている。 幸三は、知った友だちがいない不安を感じながら指定の教室に入った。すると、町の小学校から進級してきた生徒たちが、すでに、3〜4人のかたまりを作り、大声で笑ったり、教室中に響く大きな奇声を上げたり、とりとめのない話でざわついていた。きっと顔見知りなのだろう。
幸三の教室は男女がほぼ、同じ人数だった。
教室の壁に備え付けられた古めかしい木製の茶色い四角いスピーカーから、体育館に集まるように放送が響いた。生徒たちは教室の黒板に書かれた体育館への案内図を頼りに、やや混乱しながら、無秩序に移動を始めた。
幸三が眼にする体育館は、村では見たことのないほど大きく、空間全体が明るい光を湛えていた。その体育館で始業式が始まろうとしていた。
体育館の正面奥には、紫色の緞帳が垂れ、その手前には演壇が据えられている。5段ほどの階段を上ると正面の袖口から登壇できる造りになっていた。
全学年の生徒と校長、教員たちのおおよそ1200人が集まっている。大人と同じくらい背の高い3年生と、2年生が体育館内の両袖に控え、その中央を、幸三たち1年生が行進した。指定された席に到着するまでの間、思わぬ大歓声に鼓動を速めながら、体育館が割れんばかりの拍手で、1年生は温かく、迎えられた。