「まぁ、そんなところ」

隆弘は苦笑する。青春という名の虚飾をまとった会話。だが今、彼が感じているのは胸をかきむしられるような焦燥感だった。

「いいわね、青春してて。母さんも十代の頃に戻りたいわ」

彼女はそう言いながら水を出し、食器を洗う音が静かに部屋に満ちる。

「母さんまだ三十五歳なんだし、これからでも恋愛とか楽しんだらいいじゃん」

隆弘は視線を落として呟く。彼はこう言うことで話題を逸らそうとしている。母親に今の不安を打ち明けても無駄だろうと感じる。晶子は結婚相談所を経営し、人の恋愛相談に乗るのが仕事だが、その実自分の息子の切羽詰まった表情には深く干渉しない。彼女は常にどこか中立的な距離を維持している。

晶子は手を止め、短く笑った。

「十八であんたを産んでから、子育てで精一杯だったのよ。恋愛なんて考える暇もなかったわ」

「自分は結婚相談所の経営してるのに?」

「人の相談に乗るのは得意なの。でもね、自分の恋愛にはもう興味ないの」

彼女の声に一瞬、諦念が混ざる。隆弘はそれを聞き取るが、これ以上聞くべきじゃないと直感する。家族の間に漂う、硬質でしんとした緊張。母親という存在が、ただ一つの人生を諦め、新たな道を模索した果てに結婚相談所を営む姿は、奇妙な運命の皮肉を孕んでいる。

 

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