第一章 〜それぞれの夜、それぞれの真実~

01 2009年 渋谷 友美の失踪

隆弘の携帯に着信履歴が一件残っていた。伊藤友美(Tomomi)の名前が液晶画面に小さく点滅している。

時刻は午後十一時二十三分。見逃したのはたった十分前。帰宅してコートを脱ぎ、コーラを口にした、そのわずかな隙間の出来事だった。彼は瞬時に緊張を感じ、震える指でリダイヤルした。だが応答はない。再び、三度、試しても同じだ。

「おかけになった電話番号は現在、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないた
め……」

機械的なメッセージが冷たく耳を叩く。

友美が夜遅くに連絡をよこし、それに応じないなんて、今まで一度もなかった。彼女はアイドルを目指し、地下のイベントで笑顔を振りまく少女だった。いつだって笑顔で「今日はレコーディングでこんな新曲を歌った」「明日はリハがあるから早起き」なんて何気ないメールを送ってくれた。深夜でも、彼女はどこか安心感を持って彼に電話をくれたはずだ。

嫌な予感が胸を締め付ける。友美はいつも携帯を手放さない子だった。一瞬の不安が脳裏に点灯し、そこから不穏な想像が派生する。事故に遭った? あるいは誰かと一緒にいて出られない? 地下アイドル界隈には何かと闇もあるという噂も耳にしていた。思い付くシナリオはどれも陰鬱だった。

「どうしたの? 顔色悪いわよ? 恋の悩み?」

母の晶子が台所から顔を出した。彼女は軽い口調で言うが、その声にはどこか浮ついた気配が混じる。彼女が母親でありながら、あまりにも軽く若々しい雰囲気を保とうとしているのがわかる。