【前回の記事を読む】車の中で発見された「地獄を見た」少女。遺体の一部だけが写った写真で現場付近の保育園で聞き込みすると…
赤い鞄
打ち初めて十分ほど過ぎた頃、子供が下を向きながらウロウロし加賀の台の下に潜り込んだ。
「ボク、何しているの?」
「玉を拾っているんだよ」
子供は小さな手のひらに集めた銀色の玉を自慢げに見せてくれた。見ると子供の服は薄汚れていて鼻の下は拭き切らない鼻水のあとが残っていた。親はこんなところへ子供を連れてくるなと思いつつ、その薄汚れた服から目を逸(そ)らすことができず、慌てて子供を呼び止めた。
「ねぇボク、この女の子知らないかな?」
加賀は幼稚園の先生たちに見せた、洋服と長靴しか写っていない写真を見せた。
「これみよこちゃんでしょ?」
その子供は、玉を拾うのを邪魔されて少し迷惑そうな顔をしながら答えた。
「もう少しみよこちゃんのお話聞かせてくれないかな?」と子供の目線に腰を落とし話しかけた。
「どうしてみよこちゃんってわかったのかな?」
と尋ねると、子供は百点でも取ったかのように大きな声で、
「だってこの服みよこちゃんの服だもん。みよこちゃんこの服ばっかり着てたから、わかった」
「みよこちゃんのお家はどこかな?」
「お家は、となりのやきとりやさんだよ」
「そっか、坊やありがとうね。ここは、子供は入っちゃダメだよ」
加賀は男の子に礼を言いながらも、警察官らしい行動は忘れなかった。パチンコ店の隣には子供が言った通り、焼き鳥店がいい匂いを煙らせて商いをしていた。
店主と思われるガタイのいい男は、客と話をしながら焼き鳥を焦がさぬように、ところどころ破れている朱色のうちわで音を立て扇(あお)いでいた。
「すみません。ちょっとお話を聞かせて貰いたいのですが」
手帳を見せてカウンターになっている席に着いた。自分は警察の厄介になってなどいない、と言わんばかりに虚勢を張った男は客の視線を気にしながらも、手は相変わらずのリズムでうちわを扇ぎながら、
「何ですか?」
と無愛想に答えた。加賀は背広の内ポケットからあの写真を取り出し男に見せた。もう何回となくこの写真をポケットから出したりしまったりしているから、みよこの写真は加賀の胸筋に合わせてカーブしいくつかの皺(しわ)に侵されていた。