だがヒエの実はとてもむきにくい殻に包まれており、それだからこそ長く貯えられる利点があるのだが、食べられるようにする調製には手がかかり、先人は工夫を重ねた。厳しい自然に生きる人たちには培ってきた独特の技術があった。
思い思いの方向に穂がたれる野性的なヒエ
調製しやすくするために蒸したヒエと麦やコメと組み合わせておいしいご飯に炊く技術があった。寒さを逆手にとって加工した地域の食材と組み合わせながら、ヒエの特性を生かして工夫し、おいしく調理した。粗食にも見える食事は栄養に富み、体にやさしかった。
口が重い岩手の山暮らしの人たちが恥ずかしそうにヒエのことを訥々(とつとつ)と語る中からわかったことがあった。
つくり方や食べ方など昔のやり方を捨てずに丁寧に大切にする岩手の人たちの習慣が根付いていると。何より食べ物を大事にする心があると。
そしてそれは平地に乏しく厳しい自然風土に生き抜くために培われた知恵ではないかと。それが残ったのだと。そこに生きる力があった。
頼りになったヒエという我慢強い作物は、山間部に暮らす人たちが我慢強いのと同じだ。食べられるようにするためコツコツと我慢強く穀物を調製する技術があった。生きるためにあるものを食べる。
青森県境にある岩手県軽米町の篤農家が残した当地の農業書『軽邑耕作鈔(けいゆうこうさくしょう)』に「ヒエとともに大根を植えなさい」とある。大根やカブも救荒作物だった。
救荒食だった「粗食」を組み合わせておいしく、身近にある自然のものをおいしく食べる文化があった。自然のものを生かす体によい食事だった。
厳しい環境にあってもこれらの工夫が生きる力を育んだ。
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