入部してから数か月が経った頃、大会に出場する者を選抜する部内試合が実施されることになった。学期の初めに部員全員で大会に向けての目標を立てたのだが、部の雰囲気から団体戦で優勝を掲げることになった。

普通なら、叶うか否か分からぬ夢に向けて全員で汗水垂らして実現しようとするし、武司もそのような自己の姿を描きたかっただろう。

然し、いざそのように決定されたときに現実ばかりが武司の脳裏に過るのである。部内で選抜入りする可能性は限りなく低く、その上他校にも猛者が勢揃いしている中で優勝しようとする状況に対し、如何にして心を躍らせればよいのか。

武司は自身の殻を破れず、ただ稽古に参加するだけの操り人形のようであった。

部内試合が実施され、先輩達に打ちのめされた挙句に選抜入りを逃した。身体を怪我から守ることはできなかったが、選抜入りを期待し過ぎず、ただがむしゃらに稽古してきたことで心が大きく傷つくことは免れた。

そこで今日の稽古は終わりかと思われたが、更に補欠を決める試合もするという。

武司の相手は同学年の亮という者だった。大学から剣術を始めたのだが、恵まれた体格と抜群の運動神経を持ち合わせた、武司と対照的且つ道場仲間の勇也を彷彿させるような人物であった。

普段から特別仲が悪くはなかったが、お互いに自分から話し掛けに行くわけでもなかった。特に武司は亮の急成長を良くは思っておらず、亮を交えて会話している自身の顔に歪みを感じることがあった。

亮の眼から本気で勝ちに来ていることが一目瞭然であり、武司の自尊心がそれを許さなかった。

同時に大会優勝というのは遠い目標だと感じていたのに対し、補欠に選ばれるというのは眼前の目標だと脳内で刻まれた。

この瞬間初めて理想への拘りを感じることとなった。そしてそれが成就することで、部全体で同じ理想に向けて奮闘するという、高校生の頃の己が憧れた光景に近づくことを夢見た。

 

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