「……逆なんですか?」

「ああ。物件を見ていただくのはお客様の購入条件をしっかりとヒアリングして、整理した後だね」

僕がよくお客様に断られる理由として、予算の問題、間取りの問題、保育園の空き問題、親の反対問題、車を駐車しにくいといった問題がある。

ここを切り崩せずにいつも苦労していたのだ。

「俺も新人の頃はよくそこで躓(つまず)いたよ。でもある時に気付いたんだ。こんなの条件が全部揃うまで待ってたら他の営業マンに先越されるよって。

だから、俺はまずお客様の購入条件をすべてヒアリングして整理することから始めたんだ。

家族構成、いま通っている保育園はどこか、希望の学校区、親からの資金援助の有無、実家からの距離、家を購入しようと思った動機、どういう家が理想なのか。

聞けることは何でも質問した。もう、とにかく目の前のお客様のすべてを知ろうと思ったんだ。

同じ不動産でもお客様によってベストなのかそうじゃないのかは違ってくるだろ?

だからそれを不動産のプロとして、目の前のお客様に合った最適な物件の探し方をアドバイスするようにしたんだよ。

そしたら、今まで売れなかったのが噓のようにどんどん契約できるようになったんだよ」

「……なるほど。僕は今まで、いかに目の前の物件をお客様に気に入って頂けるかしか考えてこなかったです。

でもほんとうは、もっとお客様のことを知る必要があったんですね……」

金光さんの話を聞いていると、今までのやり方が間違っているような気がしてきた。

「いいかい? 何度も言うけど、お客様は家を買うのが初めてなんだ。

斎藤くんだって、初めて車を買った時はどういう基準で買ったらいいのかよくわからなかっただろう?」

「は、はい。たしか中古車販売店の営業の人にいろいろと質問されて、勧められた車を買ったと思います」

僕が初めて車を買ったのは大学二年の夏だ。黒色のフィットを買った。

ほんとうはその時に付き合っていた彼女にカッコイイと思われたくて、BMWが欲しかった。

でも、中古車販売の営業の人に

「彼女さんとドライブする機会が多いなら、絶対に国産車のほうがいいですよ。乗り心地も燃費も断然良いですし、維持費が全然違います。安くすんだお金でいっぱい彼女さんと思い出をつくってください!」と熱く語られて、結局、国産車のフィットにしたのだった。

 

👉『僕の人生を変えたキッカケ』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「明るくて…恥ずかしいわ」私は明るくて広いリビングで裸になる事をためらっていた。すると彼は「脱がしてあげるよ」

【注目記事】大やけどで真っ黒になった、壊死した指。両手10本とも第1関節から切断することに