Chapter2 生存への道
林がキャンプ場の裏のトウモロコシ畑に赴くと、畦(あぜ)のところで泉が中学生の女子らと立ち話をしていた。
泉は林に気付いて言った。
「たぶんここにある農作物の収穫済み・未収穫分をあわせれば、三か月くらいはしのげると思うわ。ただし未収穫のものを収穫するには道具が必要ね。その他に、広い調理場やカマドが要る」
「道具は観光案内所の物を利用すればいい。足りないものや、カマドなんかは、自分たちでつくるしかないね」
「あともうひとつ、大事な物が無いわ」
「大事な物?」
「肥料よ」
泉は広がるトウモロコシ畑に目を移した。青空の下、真っ直ぐ伸びたトウモロコシが、天に向かって元気に立っている。
「今ここにあるものは、化学肥料を使って成長速度を速めたり大きくしたりしていると思うけど、これから私たちがつくるとなると、そういった物は無いでしょう? このままやっても収穫高は減った上に、貧相な物しかできないわ。下手をしたら雑草に養分を取られて全滅するかもしれない。農薬とまでは言わないけど、肥料は絶対に必要だと思う」
「肥料ってどうすれば調達できるの?」
「人間の便でできるわ」
「便? ――ああ、人糞で肥しを作るって聞いたことがあるな」林は畑に目をやった。「つまりここで用を足せばいいってこと?」
「ただまき散らしても肥料にはならないわ。集めて熱を持たせて発酵させて……要するに化学変化させるのよ」
細かい原理は彼女も知らないようだ。林は腕組みし、
「ちょうどトイレ問題も深刻になっている。肥料の問題と合わせて一挙に解決できればいいね」
事実、トイレ問題は急務だった。
ちょっと前に、みながそこいらの茂みで用を足していることについて、早坂が注意した。
「あちこちに便を捨てるのはやめるべきだ。雨で地面に沁みこんだり、キャンプ地まで流れてきたりしたら、悪臭どころか土壌汚染がはじまるぞ」
その後、誰が始めたか川の支流に便を捨てるようになったが、これは沼田が止めた。
「貴重な水源・食料源の川を汚したら本末転倒だ」
じゃあどこにすればいいのか。みな、便意をこらえながら頭を巡らした。
とりあえず環境被害を最小限にすべく、キャンプ場の風下でいくらか下ったところに穴を掘り、葉を敷き詰め、倉庫にあった板で蓋をして、便捨て場としたが、これとて量は限られている。メンバーらはトイレがこんなに厄介な問題になるとは思ってもいなかった。現代っ子にとって水洗トイレは当たり前で、お尻の洗浄機やトイレットペーパーのありがたさなぞ、考えたことも無かった。
その晩、大学生らは話し合いを持った。
農業の話になり、泉が発言した。
「昔、祖父母の畑の手伝いに行くと、肥溜(こえだめ)っていうのが畑の端っこにあったの。そこに便を溜めて肥料にし、必要な時に畑に撒いていた」
「じゃあ、肥溜を造ろう」早坂が言った。「穴を掘って、そこに汚物を捨てるってことでいいのかな?」
「それではだめだ」沼田が言った。「土が汚染されてしまうし、養分が分解して土になり、肥料でも何でもない物になってしまう」
「なら、どうすればいいだ?」