第1章 介護を通じて育む家族の愛

前触れもなく始まった母の看病

それは1995年3月、まだとても寒かった日のことでした。

めずらしい母からの電話ですべてが始まりました。

私が電話に出るやいなや、滅多に弱音など吐かない気丈な母が弱々しい声でこう言ったのです。

「みよしちゃん。ママ、具合が悪くなっちゃって……」

その時、66歳だった母は、これまでの長い人生で味わったことのない自分の体の変調と迫り来る不安を、うまく言葉に表せないようでした。

母の不調は聞いてはいたもののそのたびに、「なんかあったら面倒を見るからね」と軽い気持ちで返事をしていたのですが、今回は口調から察するに随分と深刻な様子です。

私が「大丈夫?」「どこが悪いの?」などと質問をしても、一向に要領を得ない回答ばかりで、数分間、ちぐはぐな会話が続きました。

自分の体に対する不安で気が動転していたということもあるでしょうし、うまく親子関係を築けなかった私相手に、素直に感情を吐露できなかったというのもあったのでしょう。思えば、お互いに何を考えているか理解できない、不器用な親子です。

私はその時、両親とは別の県にあるアパートに旦那と住み、仕事といえば時々パートをする程度。悠々自適な生活を送っていました。私と同居するために家をリフォームしようかと考えている両親たちの考えをよそに、夫婦だけで暮らすマンションを買おうかなど呑気に考えていたのです。

自分の幸せだけを思い、もちろん、母の体調が深刻なものであるなど考えもしませんでした。